「異次元緩和」から5年以上たってもインフレ期待は低い

また、経済成長を図るには時間がかかる。経済成長を促進するために進めた政策が、本当に狙った通りの効果を発揮するとも限らない。アベノミクス下での日本銀行による異次元の金融緩和はそのよい例だ。

2013年4月、日本銀行は2年で2%の物価上昇率を達成することを目指して量的・質的金融緩和の導入に踏み切った。しかし、それから5年以上が経過した現時点でも、インフレ期待は上昇していない。将来の成長を当てにして財政の再建を進めることは難しく、その不確実性も大きいと考えるべきだ。

さまざまな景気対策が検討されているが……

基本的に、1つの方法でわが国の財政状況を立て直すことは難しい。実際には、徴税の強化と歳出の削減、経済成長の3つの方法を組み合わせることが現実的である。具体的には、税の負担を特定の階層(世代、所得階層)に偏ることなく、社会全体で分担していくことが重要だ。それが、社会全体での公平感を保つということである。

次に、増税によって得られた財源を社会保障関係費に充てることで、必要な歳出を支える。その上で、政府が増税による景気の悪化を抑えるために必要な政策(景気対策)を進めることが求められる。

安倍政権は、2019年10月の消費税率引き上げを予定通り実行するとしている。消費税は子供から高齢者まで、わが国の国民がその消費額に応じて等しく負担する税制である。安倍政権は、消費税率を10%まで引き上げた場合、そのうち1%分の2.8兆円の財源について、社会保障の充実に充てるとしている。具体的には、子ども・子育て支援に0.7兆円、医療・介護に1.5兆円、年金に0.6兆円を振り向けるという。

また、安倍政権は経済成長を実現するために、消費税率引き上げに合わせてさまざまな景気対策を計画している。自動車購入時の税金減免、額面以上の買い物ができる“プレミアム商品券”の発行、そしてキャッシュレス決済(現金を用いずにQRコードやクレジットカードなどを使って代金の支払いを完結すること)での消費税率引き上げ分=2%分のポイント還元などだ。

そうした取り組みが国民の理解と納得を得られれば、消費税率引き上げ後の需要の落ち込みが緩和される可能性はある。それは、財政再建を進めつつ緩やかな景気回復を維持していくために必要不可欠な取り組みだ。