魔法の言葉:褒めるタイミングを逃すと、泥沼にはまり込む
鍛治舎 巧
スランプに陥った選手、伸び悩んでいる選手へのアドバイスの秘訣は、シンプルにすることです。袋小路に入り出口が見つからず困っているわけですから、複雑な話をしてもますます迷うだけ。出口を一点に絞ることが大事です。そして何より重要なことは、目標を実現できたと見たら、“間髪入れずに褒める”こと。「やったじゃないか! 今、できたな!!」と。これは本人に“できた”という手応えを確実に認識してもらう狙いが1つ、さらに「監督は自分のことを常に気にかけて見てくれているんだ」とわかってもらう狙いがあります。褒めるタイミングを逃すとどうなるか──。選手は、泥沼にはまり込んでしまう。
これは、上司と部下の関係でも同様です。昔であれば、部下が目標をクリアしたり、ちょっとした課題を克服しても、上司は心でニンマリしながらも素知らぬ顔をしていましたよね。「あいつもなかなかやるな」「よくできるようになったな」という想いを口には出さず、心にしまい込んでいた。でも、今の若者には、それでは伝わりません。
私はパナソニックの専務役員として国内・海外に数百人の部下がいました。少年野球を通して日本一を目指す中学生とも長く接してきました。直近では春夏の甲子園で優勝を目指す高校生の指導にあたっています。その経験から言えることは、マネジメントの“肝”は、中高生に対しても、ビジネスパーソンに対しても一緒だということです。
野球では、一定レベル以上のチームになると、エースだったピッチャーが2番手、3番手に落ちたり、4番バッターが打順の下位に落ち、やがて代打に回るといったことも珍しくありません。そこから立ち直るのは非常に難しい問題です。本人の頭の中に「自分はエースだ」「自分は4番だ」という思い込みがあるからです。それを払拭するには、ライバルを絶えず投入し、多少過大に褒めてでも、その存在を意識させ、本人に不動のエースや4番と思い込ませないようにすること。「彼らに勝ち続けないと今の座は危ない」という状況に追い込み、考える暇を与えないことです。会社の場合、ベテランなのにあまり力を発揮できなくなり、ポジションも上がらないというケースがあります。そうした人には、役割をしっかりつくってあげること、つくらせてあげることが大事です。モチベーションを上げるための策を講じないと、組織は停滞します。価値観の異なる、様々な人のバラバラな目標を、ロジックとして組み合わせ企業活動に生かすことが大事です。
そのためには組織をマネジメントする者が、子供、選手、部下たちを「オール」で見るのではなく「イーチ」、つまり個々人それぞれに目を向ける姿勢が大切です。選手たちが練習前の準備運動をしている間、ベンチでただ眺めていたり、コーヒーを飲んでいるような監督ではダメ。選手の間に入り込み、たとえ100人を超す部員数でも、一人ひとりに、1日1回は声をかけるよう心掛け、その反応に気を配ることです。それは時として「今日はいつもと違う。ケガをするかもしれない」などと感じることにもなり、当人にいつも以上の心配りをすることで、リスク回避できることに繋がることがあるわけです。