理由1:新たな価値の出し方が把握できていない
現状、多くの企業がIoTのツールを導入してデータ分析と改善を行っています。しかし、改善によるコストダウン効果が十分得られていないため、なかなか本格導入が進んでいません。こうした状況で期待されるのが新たな価値の創出ですが、事例を分析しても自社の状況にあった方法はなかなか見つからない状況です。
実は、一見多様に見える事例も大きく分けて3類型に整理できます(図2)。付加価値の出し方は、類型によって変わることを認識し、新たな領域に踏み出すことが出発点となります。以下に、それぞれの類型を示します。
第1類型は『インターネット+デバイス』です。デバイスの代表であるセンサーが高品質かつ安価になってきました。センサーがモノの情報を自動収集することで、従来見えなかったものが見え、新たなつながりとして他の製品やソリューション等と結び付きが生まれる類型です。近年、ベンチャー企業にも幅広く取り組まれています。
代表例としてスマート歯ブラシがあります。子供の歯ブラシの使用状況を加速度センサー等で認識し、ちゃんと隅々まで磨けているかを確認できるツールとなります。スマート歯ブラシはコストダウン追求型の商品ではなく、新たな価値を訴求する商品になります。
こうした『インターネット+デバイス』類型での典型的な価値創出方法は、行動改善による継続的効果の確保です。スマート歯ブラシの例では、計測分析するだけでなく、子供の適切な歯磨きのために、面白いゲームで磨き方をサポートしたりします。継続しにくい場合には新たなゲームを投入するなど、あの手この手で適切な歯磨きを継続させます。ここまでくれば、子供の健康確保という新たな価値が創出し、顧客である親にとって高い信頼性が得られます。一つ目の類型が生み出した価値は「継続性と信頼性の確保」です。
第2類型は『IT(情報通信)+OT(制御)』です。新たなデータを見えるようにして、工場の多数の設備や作業者などのPDCAを加速するものです。ここでは、すでに継続性が得られているので、もう一歩レベルの高い効果が求められます。しかし、日本の工場では、以前から厳しい改善活動を行ってきていること、改善効果が徐々に低下していくことから、これまでにない価値の創出が求められています。
こうした『IT+OT』類型での典型的な価値創出方法は、改善による高い信頼性を確保した上で、データを顧客や関係者と連携することによって、従来よりも広い範囲の仕組みを構想して効果を拡大することです。蓄積されたデータを用いて予測精度を向上すれば生産停止による利益損失や機会損失のリスク低減、顧客の販売計画の精度向上も実現できます。このように、工場の設備管理や運営管理者向けの価値から、経営側の価値に範囲を広げることができれば付加価値が最大化します。二つ目の類型が生み出す価値は「データ連携による範囲拡大と新たな関係構築」です。