軍事の専門家であるコリン・パウエル氏をはじめとしてビジネス界でも大前研一氏や孫正義氏、ビル・ゲイツ氏ら『孫子』に言及する著名人は数多い。戦略論の大家がその背景を読み解いた。

『戦争論』と『孫子』の共通点

2500年前に中国で書かれた『孫子』は、今も各界のリーダーたちに愛読されている。例えば、湾岸戦争の際にアメリカ軍統合参謀本部議長を務めたコリン・パウエル氏(後に国務長官)だ。「砂漠の嵐」作戦で決定的な成果を挙げたが、その基本的な考え方を示した「パウエル・ドクトリン」は『孫子』の影響が色濃くにじむ。

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ビジネス界に目を向ければ、ソフトバンクグループの孫正義社長は、創業3年目の上り調子の時期に慢性肝炎で入院した際、多くの書物を耽読するなかで『孫子』と出合った。『孫子』の言葉に自分の言葉も加えて、25文字からなる経営方針「孫の二乗の法則」を編み出した話は有名だ。

マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も、著書などでしばしば『孫子』に触れている。ほかにも、アメリカのIT業界の経営トップにはファンが多くいるといわれる。なぜ、これほど『孫子』は現代のリーダーたちを魅了するのだろうか。いくつかの視点から読み解いてみたい。

戦争には、マクロの「戦略」とミクロの戦闘における「戦術」が必要だが、もう1つ、メソ(ミドル)のレベルにあるのが「作戦」だ。個々の戦闘をまとめて戦略と連動させる作戦はきわめて重要な意味を持つ。

作戦には消耗戦と機動戦の2つのタイプがある。消耗戦は、軍事力を最大限に生かして敵の攻撃力の重心を攻撃し、物理的な壊滅状態に追い込む。敵の戦力を分析し、明確な計画を立て、テクノロジーを駆使し、物量で圧倒して勝つ。定量的分析に基づくサイエンスとしての戦い方だ。中央集権的な階層的組織が適する。

ビジネスに当てはめれば、市場や競合を分析し、自社にとっての最適なポジショニングを探るといった、ビジネススクールでMBAを取得した戦略スタッフが立案するような論理分析的な競争戦略が浮かぶ。