当時SNSで起きていたこと

大村コーチがみたというSNSの動画は、どのような内容だったのか。

関学大と日大の定期戦が行われた5月6日の夜、oregonball氏がユーチューブに悪質タックルの動画を投稿し、それをツイッターで告知している。現在は削除されているが、どうやらこれが最初の投稿動画のようだ。

この動画を、朝日新聞のツイッターアカウントや、ハドルマガジンの上村弘文氏、スポーツジャーナリストの三尾圭氏などが取り上げ、問題提起を行った。つまり、試合当日の6日夜から翌7日には、すでに専門家やファンの間で議論が白熱していた。関学大の大村コーチは、こうした議論の白熱ぶりを知って、小野ディレクターにメールをしたものと思われる。

ここで重要な点は、初期段階で専門家による問題提起が行われたことだ。これと酷似するケースが過去にある。2014年に理化学研究所で起きたSTAP細胞の不正問題である。

STAP細胞の「疑惑」は、発表当初から匿名の掲示板やブログで指摘されていた。しかし、理研関係者は事の重大性に気づかず、こうした指摘に対して「取り違えミス」と回答。その答えが火に油を注ぐことになった。

結果として、匿名の告発が呼び水になって、多くの研究者がSNS上で議論と検証を開始。社会の関心も、「世紀の大発見」から「論文不正疑惑」へ移った。STAP細胞の存在が疑問視され、世界中の研究者が再現実験を行ったが、結局誰一人「再現性」を確認できなかった。それでも理研は「STAP細胞の再現実験」にこだわり続け、監視下での実験も実施。結局、時間とカネを浪費しただけに終わった。

日大は「監督の指示の有無」について、第三者委員会を設置し、検証しようとしている。委員会は6月6日、試合の行われたグランドを視察し、日大職員やアメフト部の関係者から話を聞き、反則プレーの行われた場所や内田前監督がいた位置などを確認したという。

事態がここに至っても、再検証を行おうとする第三者委員会の姿勢は、STAP細胞の再現実験にこだわった理研の姿に重なる。理研はどうなったか。検証に至る過程で自殺者を出し、その権威は地に落ちた。