民法「婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」
2018年1月、サイボウズの青野慶久社長を含む4人の原告が、選択的夫婦別姓制度を求めて国を相手どって提訴した。法的な論点を整理しよう。
夫婦の姓について、民法は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(750条)と定めている。夫と妻どちらの姓にしてもいいので、制度上、男女の扱いに差はない。ただ、妻が夫の姓を名乗るケースは約96%。これは実質的な男女差別であり憲法違反というのが、従来の夫婦別姓派のロジックだった。
こうした訴えに対して、2015年に最高裁大法廷は、民法の規定は合憲という判断を下す。裁判官15人中5人は違憲を主張するなど意見は割れたが、ひとまず合憲判断が出たことで、しばらく無風状態が続くはずだった。
ところが、数年後の今回の提訴。今回は何が違うのか。弁護人を務める作花知志弁護士は次のように解説する。
「今回、私たちが問題にしているのは、民法ではなく戸籍法。現行の戸籍法には“法の欠缺”があり、憲法に違反しているという主張です」
この主張を理解するには、氏には「民法上の氏」と「戸籍法上の氏」の2種類があることを知る必要がある。民法は家族の権利関係などを決める実体法。それに対して戸籍法は、実体を戸籍という実務に投影させるための手続法だ。通常、「民法上の氏」と「戸籍法上の氏」は同じだが、異なる場合もある。代表的なのは、離婚後旧姓に戻らず、婚姻時の姓を名乗り続けるとき。
「離婚すれば、『民法上の氏』は必ず旧姓に戻ります。ただ、戸籍法に基づいて届け出れば、婚姻時の姓を『戸籍法上の氏』として使い続けられます。氏が変わると社会生活で不利益を被ることがあるので、そのケアとして戸籍法上に規定が設けられました」