※本稿は、田中道昭『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』(PHPビジネス新書)の第7章「『ライドシェア』が描く近未来の都市デザイン」(全37ページ)の一部を再編集したものです。
ライドシェア企業は自動車産業をリードする可能性が高い
日本上陸が遅々として進んでいない本格的なライドシェアサービス。そのため「ライドシェア」を誤解する向きが少なくありません。
その一つが、ライドシェア=白タク(営業許可を受けず、一般人が自家用車を使ってタクシー業務を行うこと)という誤解です。これはライドシェアの日本上陸を阻むために意図して「作られた」誤解ではないかと考えられます。
タクシー業界は「白タク」であるライドシェアに反発、国土交通省もライドシェア解禁を「慎重に検討する」という構えを崩していません。しかしライドシェアが白タクというのは、ライドシェアの本質を根本から見誤ることになるので注意が必要なところです。
結論から述べると、ライドシェア企業はテクノロジー企業であり、「ビッグデータ×AI」企業だとみなすべきです。さらには、都市デザインを変革するという高い使命感を掲げており、最終的に次世代自動車産業をリードする可能性が高いとさえ、目されているのです。
すでに米国では「タクシーよりもウーバー」が常識
事実、日本とは対照的に、米国や中国でのライドシェアの浸透ぶりは目覚ましいものがあります。すでに米国では「タクシーよりもウーバー」が常識。そのウーバーは2009年創業ですが、その企業価値はすでに7兆円とも言われ、ユニコーン企業の代表格と呼ばれるまでに成長しました。
ライドシェアの社会実装は進み、いまや単なる輸送サービスの枠を超えたと言ってもいいでしょう。筆者はそれを、CES2018で確信しました。
米国ではウーバーよりも社会的評価の高いライドシェア大手のリフトの経営陣も参加した「障害者の自立支援のための自動運転」というパネルディスカッションで、視覚障害を持ったある経営者がこんなふうに語っていたのです。「ライドシェアは、視覚障害者の自立に大きく貢献した。視覚障害者でもアプリを通じて気軽に利用できるライドシェアは、障害者にとっても安心できる交通手段だ」。また、ライドシェアでは聴覚障害者もドライバーとして活躍しているとのこと。ライドシェアの社会実装が進む米国では、同サービスは輸送サービスとしての機能的価値のみならず、情緒的価値、精神的価値をも提供する存在になりつつあります。
こうした流れを受けて、トヨタやGMといった自動車メーカーがライドシェア企業に出資する動きが顕著です。また自らライドシェア事業に進出する企業も続々と登場しています。2018年2月には、自動車部品最大手のボッシュがライドシェア事業に参入することを発表しています。それはライドシェアが次世代自動車産業における中核的事業になると予想されているからなのです。