実はその部分においてこそ、日本人にはにわかに理解しがたい、中国の皇帝政治の秘密がある。中国人は皇帝政治そのものからの脱却をめざす代わりに、王朝崩壊後の動乱や内戦がもたらす苦しみから逃れるため、ある論理のすり替えを行って、この論理のすり替えに自らの身を委ねているのである。

この論理のすり替えとはすなわち、本来であれば暴政と腐敗の根源である皇帝政治を「仁政」だとし、暴政と腐敗を抑制する役割を逆にこの「仁政」としての皇帝政治に求めることである。

中国人は「より安定した皇帝」を求める

その一方、本来であれば動乱と内戦を生み出す原因である皇帝政治に「天下安定の要」としての役割を見出し、「動乱と内戦の苦しみが嫌であれば、より安定した皇帝政治をつくり、より安定した皇帝政治に依存しよう」と考えるのだ。

こうした考え方が中国人の政治論理と国民の潜在意識として広がり、定着した結果、皇帝という存在と皇帝政治はむしろ、国の安定と国民の幸福を保証するための必要不可欠な装置となり、中国人は皇帝政治から抜け出すどころか、むしろ皇帝と皇帝政治にわが身を委ねることになってしまったのだ。

この論理のすり替えが歴史的にどのようにして行なわれ、いかに国民の潜在意識として定着していったのか、ということこそ、まさに拙著において筆者がひもとこうとしてことである。そうした認識を理解してこそ、日本の政治システムとはまったく異なるシステムをもつ中国がどんな原理で動いており、拡張著しい彼らにどう対処すればよいのか、という智恵を、日本人は手に入れられるのではないだろうか。

石平(せき・へい)
評論家。1962年中国四川省成都市生まれ。80年北京大学哲学部入学。84年同大学を卒業後、四川大学講師を経て、88年に来日。95年神戸大学大学院文化学研究科博士課程を修了し、民間研究機関に勤務。2002年『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所)の刊行以来、日中・中国問題を中心とした評論活動に入る。07年に日本国籍を取得。14年『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞を受賞。近著に、『なぜ日本だけが中国の呪縛から逃れられたのか』(PHP新書)などがある。