脳研究でも証明された「思いやり」の効力
自尊心をあおるのではなく、自然体で自己や自分の能力に満足していられたらどんなことが起こるだろう? ズバリ、人から好かれる。過剰な自信が共感性を失わせるのと対照的に、自分への思いやりを育むと、他者への思いやりも増すことが神経科学の研究によって証明されている。
機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の画像で、自分を許している人びとの脳を調べると、他者を思いやるときに活性化するのと同じ領域が活性化していることがわかる。また、夫婦が良いパートナーかどうかの判断材料としても、自尊心よりセルフ・コンパッションのほうが優れていると評価された。
この章の前半で述べたように、自信の効果の一つは、あなたを幸せにすることだ。ところがセルフ・コンパッションも同じ効果をはたす。しかも、自信がもたらすような弊害は一切ない。調査によると、自分への思いやりは、幸福感、楽天主義、個人の主体性、他者とのつながりによる充足感と強く結びついている。さらに、不安感や抑うつ感、神経症的な完璧主義、反芻思考などの緩和とも大いに関連している。
自尊心だとうまくいかない場面でも、セルフ・コンパッションならうまくいくのはなぜだろう?
自尊心は妄想的か不確かかのどちらかで、いずれにせよ良い結果につながらないからだ。自分は素晴らしいと常に感じているために、現実から自分を切り離すか、自分の価値を証明するために無限に走り続けなければならない。いつかは自分の期待値に届かず、ひどく落ち込むことになる。また、執拗(しつよう)に自分を証明し続けるので心身が疲れ、不安で落ち着かないのは言うまでもない。
一方、自分への思いやりは、事実に目を向け、あなたが完璧でないことを受けいれる。著名な臨床心理学者、アルバート・エリスがかつて言ったように、「自尊心は、男女を問わず厄介な病である。常に条件付き」だからだ。片や、自分への思いやりがある人は、絶えず自分を証明する必要にも駆られず、また、調査によれば、「敗北者」だと感じることも少ない。