販売所を辞めれば、在留資格を失う

新聞販売所で働く留学生には、2つのパターンがある。新聞社の奨学会に採用されて来日する奨学生と、日本に留学後、個々の販売所でアルバイトとして雇われた留学生たちだ。ハイ君は「奨学生」である。新聞社で唯一、外国人奨学生を受け入れている朝日新聞の朝日奨学会を通じて来日した。

もともと朝日奨学会では、朝日新聞が中国の関係当局と結んだ友好事業の一貫として、1982年から中国人奨学生を受け入れていた。その後、中国人の受け入れは減り、代わってベトナム人奨学生が増加する。そして受け入れの性格も、「友好事業」が「人手不足対策」へと変化していった。

朝日奨学会東京事務局は毎年春と秋、ベトナムから奨学生を受け入れ、首都圏の販売所へ配属している。昨年は300人近くが来日した。その数は、今年は春だけで250人以上に達している。

一方、かつては年数百名に上った日本人奨学生の採用は、近年では100人にも届かない。しかも「仕事の厳しさに音を上げ、すぐに辞めてしまう若者も多い」(朝日新聞販売所関係者)。その点、ベトナム人の場合は、日本語学校に在籍する2年間は仕事を続けてくれる。販売所を辞めれば在留資格を失い、母国へ帰国しなければならないからだ。

就労時間を詳細に記したハイ君のノート

50人以上取材したが、法定上限内は1人もいない

ベトナム以外にも、朝日奨学会は他のアジア諸国から数十人の奨学生を受け入れている。販売所でアルバイトとして雇われた留学生を加えると、外国人配達員の数は、ベトナム人を中心に首都圏の朝日新聞販売所だけで1000人近くに上るはずだ。1人当たり300部として、30万部近い新聞が外国人の手で配達されているわけだ。

奨学生も「留学ビザ」で来日している。そのため他の留学生と同様、「週28時間以内」の就労制限の対象となる。そんなベトナム人奨学生に筆者は過去4年間で50人以上取材してきたが、法定上限内で仕事をしている者には1人も出会っていない。

彼らの仕事ぶりを改めて確かめてみようと、今年の元日、ハイ君の新聞配達に同行してみた。ベトナム人奨学生の新聞配達に同行するのは4年ぶり2度目である。取材には違法就労の問題を確かめる目的があるので、ASA赤堤や朝日奨学会には事前に伝えなかった。