「うちの子、褒められると伸びるタイプです。だから叱らないでください」。育児本の影響なのか、そうした申し出をする保護者が増えている。塾講師の松本亘正氏は「甘やかされたままだと、ここぞという時に実力が発揮できなくなる。メリハリが必要だ」という。そんな松本氏が考える「叱り方の3カ条」とは――。

子供を「褒めて伸ばす」ブームの負の遺産

子供を「褒めて伸ばす」のがブームになっている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yagi-Studio)

子供のいい面を見て、親がそれを認める。そのこと自体は推奨されるべきことだ。しかし、実際に子育てをしていると「褒めて伸ばすとよいとわかっていても、つい叱ってしまう」とこぼす保護者は多い。塾講師の私はそうした悩み相談をしばしば受ける。その際、私は「無理して褒めて伸ばそうと考える必要はありません。万人にあてはまる教育法など存在しないのですから」と答えている。

中学受験を目指す多くの小学生たちに接していると、子供のタイプは千差万別で、なかでも「聞きわけのいい子」と「聞きわけの悪い子」がいることに気付かされる。

もともと聞きわけがよく賢い子であれば、親はめったに叱る機会はないだろう。親が意識的に褒めなくても自然に褒める機会が多くなるから、それによって本人が勝手に自信をつけ、さらに伸びる。親としては理想の形だろう。

また、秀才タイプでなくても、真面目に努力できるコツコツ型の子も褒めれば伸びるタイプだ。ささいなことでもいい点をすくいとって褒めるとモチベーションが上がる。逆に、褒めないで放っておくと、本人は不安な気持ちになり、やる気を失うケースもある。

▼本番に強い子は「褒めて伸びる子」ではない

では、聞きわけの悪い子はどうか。

わが子が、調子に乗ってふざけやすいタイプや、うっかりミスが多いタイプだと、何かと叱ったり小言を言ったりすることがあるだろう。そういう親が育児本などを読んで「褒めて伸ばさなきゃ」と思って叱るのを我慢すると、ますます野放し状態になる。それでは結局、どこかで親も爆発して、親子間のバトルが過激になるだけだ。

中学受験生を指導していて、「偏差値50未満の子が偏差値65の駒場東邦に受かった」「偏差値30台の子が偏差値50以上の明大中野に受かった」といった逆転劇を毎年目にする。

このように土壇場で「逆転できる子」の多くは、「本番に強いタイプ」だ。そして、実を言うとこのタイプは「褒めて伸びる」子ではない。むしろ逆に、いつも親が手を焼き、塾でも何度も同じことを注意されてもなかなか改善されないタイプの子なのだ。

繰り返し叱っているのにまた同じことを繰り返してしまう、その時は反省しているけれど気づいたらどこ吹く風――。問題児ではある。

しかし、長い目で見ると、彼らはどこか肝が据わっていて、タフなメンタリティーの持ち主であることも多いのである。もし、「わが子を褒めたいけれど、つい叱ってしまう」状況にあるとすれば、保護者は気にせず自然体で叱ってもいいと私は考える。

とはいえ、子供の心をくじいてはいけない。そこで叱るときの注意点を3つあげたい。