ただ、運用に関してはいくつかミスマッチもあるようだ。まず、「金銭的に不安な人のほうが投資していない」という現実(図9)。手持ち資金が少ないので、失敗したら大変だと思っているのだろう。

しかし、生活に不安がないくらいにストックを持っている人は、投資などする必要はない。多少の不安があるからこそ、足りない分を投資で補うのだ。ここについては意識を変えていく必要があるだろう。

とはいえ、約4割の人は退職金を投資に回している(図8)。金額ベースで見れば、投資に振り向けた資金の額は退職金の3割以下なので、実際に投資に回った資金は全体の1割ちょっとだが、全体の4割の人が投資したというのは、まずまずの数字だ。

退職金の使い道と運用に関してもミスマッチが見られる。ここで注目したいのが、「日本の株式」と「その他の投信」の部分。生活費の運用先として日本株を選んでいる人が多い一方で、病気や介護などへの備えとして、定期分配のある投資信託を選んでいる人が多い(図10)。

本来、生活費のように目先で使うお金の運用に、株式は向いていない。株式はやはり長期的に投資するべき対象であり、むしろ病気や介護など、いつ使うかわからないけれども、恐らく目先で使うことはないと考えられる資金の運用に用いるものだ。一方、定期分配がある投資信託などは、基本的に長期運用には向かず、近い将来に使うお金の運用に使うほうが合理的である。投資信託で長期運用をするならば、定期分配がないタイプのほうが望ましい。

 

目先の不況より、将来のリスクをきちんと直視すべき

昨年秋口から急速に投資環境が悪化し、資産運用なんてとんでもないというムードが広まっている。日本株式、海外株式、日本債券、海外債券の4資産に25%ずつ分散したときの運用実績は、過去15年間、日本債券のみで運用したのとほぼ同じ程度にまで下がってしまった。

しかし、この数字だけで長期分散投資は意味がないと考えるのは早計だ。

銀行預金のみでは、将来、年金が減額された場合、目減り分を運用のリターンでカバーすることができない。年金が減額されるリスクを、自分の努力でコントロールするのは難しいが、マーケットのリスクは長期分散投資を心がけることで、何とかカバーできる。

人は目先のリスクには悲観的になるが、将来のリスクには楽観的になるものだ。でも、将来「そのとき」がきてから後悔してももう遅いのである。

(構成=鈴木雅光)