このとき、自分が接待する側の最年少で社歴の浅い平社員であった場合は、入り口に近い下座で率先して注文をしたり、話はふられたときにだけして熱心な聞き役に徹するといったことがよしとされます。

先方のグラスがずっと空いたままでも気にも留めず、自分の追加注文だけをしてしまったら、相手のことを思いやれない「KY(空気が読めない)な人」「忖度できない人」になりますし、上司から「ビールを追加して」と指示を受けないと注文しなければ、「言われたことしかやらない人/できない人」と見なされます。

できなくても、しすぎても、減点される日本社会

このように、日本で「忖度」や「空気を読む」ことは歓迎されるにもかかわらず、「空気を読みすぎて失敗してしまう人」がいます。それは「忖度しすぎる人」です。

例えば、「上司から『なにがなんでも前年の売り上げを上回るようにしろ』と言われて売り上げの数字を改ざんしてしまう」とか、「上司と仲のよい取引先から不当な要求を受けたときに、上司の顔をつぶさないようにと勝手にその要求を受け入れてしまう」とか、「上司から『次のコンペではライバル企業に絶対に勝とう!』と言われたため、コンペの前に取引先にリベートを渡した」といったことがあげられます。

忖度しすぎる人は相手がそこまで望んではいないことまで深読みして勝手な判断でやってしまいます。「手柄を立てて認められたい」という承認欲求が強かったり、出世欲の強い戦略的な人だったりするからです。

「忖度」とは相手のことを思いやる気持ちから生まれるものですが、忖度しすぎる人の思考は、「上司のために自分が一肌脱いだ。そんな自分は評価されるだろう」と、自分中心の考え方に陥っているのです。

どちらもコミュニケーションに慣れていない

「空気を読みすぎて失敗する人=忖度しすぎる人」と「空気が読めない人=忖度できない人」に共通していることは、コミュニケーションに慣れていない点です。

「忖度しすぎる人」は、上下関係を意識して育ったものの、どの程度の忖度でコミュニケーションをとればいい塩梅になるのかがわかりません。

上司の表情や言葉尻、その場の雰囲気を深読みしたり、思い込みをしたりすることによって忖度しすぎてしまううえ、気を利かせて動いている自分に陶酔してしまう人もいます。