(3)「プロジェクト推進者」を設置する
活動はプロジェクトメンバーを中心に展開されますが、彼ら・彼女らのみで活動すべてを担うことはできません。関係部署から協力を得られず孤立するケースや、自らのみでは解決策を見いだせずに活動が行き詰ってしまうケース。こうした事態を防止するために設置するのが、プロジェクト推進者です。活動の責任者のトップが担うことも可能ですが、組織が大きい場合には別に設けることが得策です。
プロジェクト推進者の役割は、大きく2つあります。1つは、メンバーのフォロー。主に、心理的側面が中心で、プロジェクトの実施現場の訪問やモチベーション維持のためプロジェクトメンバーとの面談、定期報告会への同席などが代表的事例です。もう1つは、活動のフォロー。具体的には、プロジェクト予算の確保・他部署への協力要請・活動内容の社内周知などです。これらが滞り活動が頓挫するケースが多いので、極力早めに手を打つことが必要です。
このような役割を担ってもらうためには、プロジェクト推進者はプロジェクトメンバーが定期的に相談しやすいポジションであるとともに、必要に応じてトップや関係部署にも働きかけができるポジションであることが必要です。前者を重視すると低いポジションに、後者を重視すると高いポジションになりがちです。ポイントは、プロジェクトチーム全体で要素を担保すること。例えば、プロジェクトの中心を担うリーダーが若い場合には、他のプロジェクトメンバーをベテランにして経験を補うとともに、プロジェクト推進者も役員クラスにして人脈を補います。必要に応じて、いづれの要素を重視するのかを調整してください。
弊社のある顧客企業では、プロジェクトから多くの関係者に発信される「週報」に、4年半にわたってコメントしつづけたプロジェクト推進者がいました。常にプロジェクトメンバーへの労いがある一方で、最終ゴールを見据えたアドバイスが適宜含まれていました。例えば、「最終的なゴールは××ですが、現時点ではここまでできていれば十分ですね。いつもありがとうございます」というように。プロジェクト推進者が常に支援してくれているという安心感を感じつつ、プロジェクトは全社に拡大し大きな成果をあげました。
このように、トヨタではプロジェクトで成果を出すために、「変化に前向きなメンバーの選定」と、プロジェクトがスムーズに推進する「動機づけ」と「サポート」といった「しくみ」を重視しているのです。
OJTソリューションズ 経営企画部
東京大学教育学部卒業。トレーナーや顧客企業への取材を通じて、人材育成のコツや強い現場づくりに必要な要素などの形式知化を進める。OJTソリューションズ:2002年4月、トヨタ自動車とリクルートグループによって設立されたコンサルティング会社。トヨタ在籍40年以上のベテラン技術者が「トレーナー」となり、トヨタ時代の豊富な現場経験を活かしたOJT(On the Job Training)により、現場のコア人材を育て、変化に強い現場づくり、儲かる会社づくりを支援する。 本社は愛知県名古屋市。60人以上の元トヨタの「トレーナー」が所属し、製造業界・食品業界・医薬品業界・金融業界・自治体など、さまざまな業種の顧客企業にサービスを提供している。 主な著書に20万部超のベストセラー『トヨタの片づけ』をはじめ、『トヨタ仕事の基本大全』『トヨタの問題解決』(すべてKADOKAWA)など。