脳内に通信可能なチップを埋め込む研究も

別のアプローチで直感を活用しようという動きもある。米国防高等研究計画局(DARPA)は、将来的に兵士の脳内にコンピュータと通信可能なチップを埋め込む研究をしており、脳細胞の電気・化学信号を送受信できるようにするという。これが実現すれば脳波だけでグーグル検索ができるほか、テレパシーのような会話も可能になる。「ガンダム」でも作中で、脳波でロボットを操作できる「サイコミュ」という装置が開発されたが、現実でも脳内からの通信でドローンや戦車を動かすことができるようになるかもしれないのだ。

このことが意味するのは今後は直感がより重視されていくということだ。なぜならば、あらゆる情報を瞬時に脳内に集約できるので、膨大な情報を処理するためには直感の活用が不可欠だからだ。論理的思考ではとても追いつかない。

積極的に直感を導入する米軍だが、人類はこうした直感力によって生き延びてきたという。外務省きってのインテリジェンスの専門家の北岡元氏は、その著書『仕事に役立つインテリジェンス』で「こうした直感は、とんでもない過ちを犯すこともあるが、素晴らしい結果をもたらす」と指摘している。

北岡氏によれば、インテリジェンスの世界では直感を「ヒューリスティクス」と呼び、情報機関でも盛んに使用されている。「ヒューリスティクス」は思考の積み重ねはせず、短い時間で正解に近い解を得る手段だ。「ヒューリスティクス」は物事を順序立てて結論を論理的に導く「アルゴリズム」とは違い、膨大な情報の中から、微細で広範なパターンを瞬時に認識し、分析するインテリジェンスの仕事には欠かせない手法なのだ。

▼直感的思考(ヒューリスティクス)
最終的判断や評価まで一気に到達する思考の近道。短い時間で正解に近い答えを得る手段のため、突発的なトラブルが発生した際など、即座に経営判断が求められる場合には有効だ。その分、導いた判断が間違っている可能性がアルゴリズムよりは高く、リスクも大きい。
▼日本の旧来型思考(アルゴリズム)
思考の積み重ねで、最終的判断や評価に到達する手段。熟慮した分、判断を間違うリスクは低いので、重要経営判断を下すときなどに使われる。一方で時間がかかるため、参加者が疲弊するほか、機を逃す場合も。
 

そもそも、人類自体がヒューリスティクスによって生き延びてきた。縄文人が大噴火や大津波を見たときに「はて、これはどういった現象だろうか」と考えていては死んでしまう。何も考えずに、てんでんこで逃げたからこそ今の我々がいるというわけだ。

北岡氏はいちいち、思考の積み重ねを行っていては、日常生活や会話が困難になると指摘する。例えば、「小池都知事についてどう思うか」と聞かれても「どんな経歴だっけ? 公約は東京をアニメランドにし、築地を守り、豊洲は生かすだっけ?」と長考に入ってしまい、相手を呆れさせてしまい、他愛もない会話すらできなくなるということだ。