不動産価格の高騰によって、中国は多くの社会問題を抱えることになった。土地を手に入れるために、公務員に対する贈賄が蔓延。さらに相続税がないため、土地をもつ人間はさらに富み、貧富の格差は世界最悪級だ。しかしバブルをつぶせば、大きな景気後退が避けられない。平等に重点を置く「社会主義」を標榜しながら、中国は矛盾に苦しんでいる――。

贈賄の動機は“土地ほしさ”のため

90年代からわずか20数年程度の 歴史の浅さからしても、中国の不動産市場は未熟で、また、法律・法規も不完全なものだった。ましてや土地の権利関係も曖昧な状態だった。

権利関係の曖昧さを物語る最たる事例が「土地の使用期限」である。中国ではマイホームを取得したとしても、土地については「使用権」を獲得したにすぎない。その使用期限は70年とされているが、期限到来後の「使用権」がどうなるのかがはっきりしない。昨今、中国人が好んで欧米や日本の所有権のある住宅を購入したがるのはここに理由がある。

このような「不完全な市場」で不動産投資が膨れあがった結果、中国では多くの問題を引き起こすことになった。

強制的な立ち退きを報道する映像は、2000年代の日本のお茶の間にも流れた。高級物件偏重型の不動産開発、違法な耕地利用、土地を動かすための贈収賄――ありとあらゆる社会問題が一気に噴出した。

公務員の汚職撲滅は、習近平政権の最大の課題である。中国では日々、汚職検挙数や汚職幹部摘発のニュースが流れるが、問題の核心は「何のために公務員に贈賄するのか」にある。答えは簡単だ。すべては“土地ほしさ”のためである。

今から4年前のことだが、筆者は、近く工場を拡張する計画を持つ中国人経営者を訪ねたことがある。この経営者は必要書類の準備で多忙だったが、「書類を準備しても簡単に土地を分け与えてはもらえない」と言い、贈賄なしではその先に進めないことをほのめかした。

振り返れば、中国では誰もが不動産欲しさに血眼だった。一般市民は住宅を欲し、不動産業者は開発用地を欲し、工場経営者は工場用地を欲しがった。地方政府に関係を築けない“まじめな弱小企業”などはとっくにお払い箱だ。地方政府の役人に食い込める者だけが生き残り、接待漬けにして贈賄し、その果実である“土地”にありついた。

不動産バブルをクラッシュさせない弊害

不動産バブルがこの国にもたらした「本末転倒」は枚挙にいとまがない。日本でも実需層(勤労所得者層)の不動産価格は「年収の5倍」で買えるというのがひとつの目安になっているが、上海ではこうした年収相応の住宅は存在しなくなった。

転売目的で買われたマンションは明かりがつかず真っ暗だ(浙江省温州市)

90年代後半の上海では、70平米(平方メートル)の中古マンションが日本円にして400万円程度で買えたものだった。当時の上海の平均的な平米単価は4000元程度(当時1元=約13円)だったが、単価も4万元(1元=約17円)を超えた今は、70平米の小型住宅も日本円で4760万円という価格をつける。内装工事前のスケルトン販売が主流の中国では、キッチン、バス、トイレや建具などの内装費が別途加算され、入居時には結局、東京の都心部にも匹敵する価格に膨れ上がってしまう。ちなみに上海の一般的なサラリーマンの月収は7000元(約11万円)程度だと言われている。