地方では局所的にバブルが崩壊

日本ではメディアが「中国不動産バブル崩壊か」などという表現を繰り返し使ってきた。しかし、中国は国土が広いため、日本のように全体で不動産バブルが崩壊することはない。だが、局所的にはバブルが崩壊している。

産業もなく人口流入もない内モンゴル自治区のオルドス市では、明かりのつかない「ゴーストマンション」が出現した。人口流出が顕著になる今、3線都市、4線都市といわれる地方都市での「供給過剰」が警戒されている。

過剰供給に陥った背景には、中国政府による財政出動がある。リーマンショックで不景気に陥った中国経済を立て直そうと4兆元が地方政府にばらまかれ、このとき、中国の至る所でマンション開発が行われた。

銀行は地元の中小企業に無理やり貸し付けを行った。当時、中国の諸都市は、「借金せよ、財テクに走れ、住宅を買い続けよ」という雰囲気に包まれていた。特に沿海部では多くの中小企業が、製造業という実業を捨て不動産投機にのめり込んだ。

筆者は軽工業が集中する浙江省温州市を訪れたが、そのとき町の人はこう話していた。「工場経営という実業は一枚の名刺にすぎない。それは融資を導くための表面上の顔なんです」。

温州市は片田舎の地味な都市だが、2010年代に入ると平米単価10万元という破格の価格をつけるようになった。軽く上海を超える水準である。上海万博(2010年)の開催直前には、地方都市でも不動産価格は狂ったように上昇した。

あの手この手の政策を打っても過熱は収まらなかったことから、中国政府は同年、「限購令」を導入する。「限購令」とは「各都市に戸籍のある者しか買えない」「保有できるのは2戸まで」「外地戸籍者は1戸まで」などとし、購入行為そのものを規制する政策だ。さらに2011年には上海市と重慶市で固定資産税の試験導入を行うなど、政府は市場の熱冷ましに躍起になった。

こうしたプロセスを経て、不動産市場は「冬の時代」に突入した。政策転換を受けて、水面下では銀行が“貸しはがし”に乗り出していた。局部的な不動産バブル崩壊を招いた元凶は、ほかならぬこの“貸しはがし”である。これが引き金となり連鎖倒産が起こった。

誰もが資金の貸し手であり借り手となった浙江省の事態は深刻だった。銀行のみならず、社員や取引先からも借りまくった資金は、すべて不動産につぎ込まれていた。だが、「冬の時代」とともに価格が下落に転じた浙江省では、投資物件を売却するにもできなくなった。この時期、中国では“夜逃げ”のニュースが中国のお茶の間をくぎ付けにした。

温州市に見るようなクラッシュは他の都市でも起こった。地方都市の不動産市況は悪化し、中国経済は失速を続けた。2016年は積みあがった“在庫”をどう処理するかが政策の重要課題となった。