「私が捨てたオトコよ……」

そんなこんなで、気づけば6軒をハシゴしていた。

艶っぽい話はなかったが、唯一、おでん屋のママ(70)が「私が捨てたオトコよ」と、石原裕次郎とのツーショット写真を見せてくれたのがご愛嬌。持ちネタらしく、常連たちの笑いを誘っていた。

ダイコン、厚揚げ、こんにゃく、ゴボウ天はいずれも50円。卵は60円。すじは90円。愛嬌たっぷりのママが営むおでん屋「蝶ちょう」

午後11時すぎ。社長たちはふらふらと帰って行った。案内役の島田さんと2人で見送りながら堀川に目をやると、水面にネオンが映っている。

だが、このネオンも、長くは続かないかもしれない。市の土地区画整理事業の対象で、今の建物は2020年度以降に取り壊され、25年度までに道路などが整備されるという。

帰り道。島田さんが語り始めた。福井県出身。20年ほど前、縁あって折尾に移り、起業した。「カネがないときもあった。それでもここは、安く飲ませてくれた。私を受け入れてくれた」

働く者たちにひとときの安らぎを与えてきた角打ち通り。できる限り変わらないでいてほしい、と願って帰路に就いた。

(記者:吉武和彦)
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