まず重要なのが、景気の方向性を占うキーワードであろう。例えば、景気にポジティブなキーワードとしては、「好調」「好況」「回復」「改善」「拡大」「堅調」「順調」「持ち直す」「上向く」など、景気にネガティブなキーワードとしては「悪化」「苦戦」「減少」「縮小」「低迷」「低調」「停滞」「不振」「不調」など、景気に中立的なキーワードとしては「横ばい」「変わらない」「維持」「安定」などがある(※「変わらない」はMeCabでは「変わら」「ない」の二語に分かれるが、使用頻度が多いため、筆者が別途辞書登録した)。これらの景気の方向性を示すキーワードの使用頻度を合計し、合計に占めるポジティブな単語の比率、ネガティブな単語の比率、中立的な単語の比率を時系列で見たのが図表2である。
現状のコメントにおけるポジティブ・ネガティブ比率の動きを見ると、昨年4月以降、ネガティブ比率がポジティブ比率を上回っていたが、11月以降はポジティブ比率がネガティブ比率を上回っている。熊本地震の影響や英国の欧州連合(EU)離脱で低迷した後、昨年秋ごろから持ち直した実体経済の動きと整合的であり、景気ウォッチャーのコメントを分析することの有用性・意義は担保されたと言えるだろう。
国際ニュースは景況心理にどう影響したか
ここからは別のカテゴリーについても見ていこう。切り口はいろいろあるだろうが、昨年以降、人々の口の端に多く上ったのは、やはり国際情勢であろう。実は、国際情勢に関するキーワードの使用頻度を見ると、非常に興味深いことが分かる。昨年以降、世界を揺るがしたのが英国のEU離脱(BREXIT)、米国におけるトランプ大統領の誕生、今年に入っての北朝鮮情勢だが、景気ウォッチャー調査の現状のコメントを分析すると、BREXITに関するキーワードの登場頻度が70であったのに対し、米大統領が33、北朝鮮は13にとどまった(いずれもピーク時の使用頻度で、例えば北朝鮮情勢については、「北朝鮮」だけでなく、「朝鮮半島」「ミサイル」といった関連語も含む)。先行きのコメントを分析しても、BREXITが371、米大統領が174、北朝鮮が79と登場頻度は大きく異なる(図表3、4)。
国際情勢の緊迫化に人々が徐々に慣れていったということもあるのかもしれないが、今年の4月以降、北朝鮮情勢の緊迫化にもかかわらず、景気の堅調が続いているのは、多くの人が北朝鮮情勢が景気に与える影響が小さいと考えた(ゆえに、登場頻度が少なかった)という面もあったのではないだろうか。