さらに、睡眠不足は「HPA軸」も刺激する(図3参照)。HPAとは脳の視床下部と下垂体、内臓の副腎に含まれる副腎皮質の3つの英語の頭文字からとったもので、人は強いストレスを受けると、脳から副腎皮質に伝達され、コルチゾルというストレスホルモンが過剰に分泌され、それが脳に影響してダメージを与える。そして、突発的な暴言や暴力といった行動が表出してしまう。

(図3)負のフィードバックをもたらすHPA軸 ※取材などをもとに編集部で作成

キレる背景にはストレス過多もあって、興味深いのが社会のIT化との関連だ。脳生理学者で医師の有田秀穂氏は「一日中、パソコンやスマートフォンと向き合って体を動かさず、頭はフル回転しているような状態だと、心の安定や安らぎに関与するセロトニンが低下し、強いストレス状態に陥ります」と指摘する。

そのストレスに反応するのが、脳の一番奥深いところの脳幹にあるノルアドレナリン神経で、脳全体に指令を発し、脳が興奮状態になる。そして覚醒レベルが上がり、不安やパニックが襲いかかる。その状態をよく「闘争か逃走か」という。そして、にっちもさっちもいかない状況に追い込まれると、キレるのだ。

それでなくても不得手なパソコンに一日中向き合ってストレスをためたうえ、オキシトシンの分泌も減っている。その結果、先ほどのように帰宅途中の電車内でトラブルを起こす中高年が増えているようだ。