怒りを感じたら咀嚼運動がお勧め

ここまで怒りの脳のメカニズムを見てきたが、ではキレないためにはどうすればよいのだろう。

西多氏は「太陽の光は睡眠ホルモンのメラトニンの分泌を活発にするので、朝日を浴びることを推奨します」と話す。そして、ストレスを抑え、怒っていた状況を鎮めるオキシトシンを分泌させることも大事だと指摘するのが有田氏である。

オキシトシンを増やす方法にグルーミングがある。サルの世界では毛づくろいだが、人間の場合は親子、夫婦、恋人同士などでスキンシップを図っているのがベストだ。マッサージやエステなども有効である。

また、怒りを言語化するのも効果があり、枝川氏は「書くことで、自分自身を客観的に見られるようになります。感情を整理した言葉にして気持ちを落ち着かせると、かなり怒りをコントロールできます」という。

一方、頭に血がのぼったときの即効薬として、「顎の咀嚼運動が効果的」とアドバイスするのが山本氏だ。

「ストレスによって脳内で不安緊張物質のノルアドレナリンが活発に分泌されます。マウスの実験では、棒をグーッと噛ませるとノルアドレナリンが低下することがわかっている。人間も同じで、ハンカチをグーッと引っ張ると奥歯を噛みしめられます。ガムを噛むことで咀嚼運動するだけでも効果があります」

不安を吐き出すのも有効だそうで、山本氏は「プライドが邪魔をして、自分が不安や恐怖を感じていることを吐露しにくい。独り言でも構わないので、トイレの個室でつぶやいたらどうでしょう」と話す。

扁桃体はピリピリした空気にも反応する。1990年代以降、市場主義の下での競争が激しくなり、日本企業の中にもピリピリした雰囲気が蔓延し始めた。それでなくても日本人は不安遺伝子のせいで不安を感じやすく、その扁桃体は休むことなく活動し続けているのかもしれない。

そうした状況を打開したいのなら、経営者が率先して穏やかな表情になる必要がある。そうすればミドル層はトップの顔色を窺う必要がなくなって表情が柔らかくなり、社員も安心して働けるようになる。怒りのメカニズムを理解した賢明な経営者なら、これまで紹介した対処法を活用しながら実践できるはずだ。

【ノルアドレナリンを抑制する3つのポイント】
(1)ハンカチを思い切り引っ張って歯をくいしばる
(2)ガムを噛んでリラックスする
(3)トイレの中で不安に思っていることを口にする

●解説者
西多昌規(にしだ・まさき)
精神科医。1970年、石川県生まれ。東京医科歯科大学卒業。『寝不足でも結果を出す全技法』など著書多数。現在はスタンフォード大学で睡眠医学の研究を行っている。
 
有田秀穂(ありた・ひでほ)
脳生理学者で医師。1948年生まれ。東京大学医学部卒業。セロトニン、オキシトシンなど脳内物質研究の第一人者。セロトニン道場の代表としても活躍している。
 
山本潤一(やまもと・じゅんいち)
日本メンタル再生研究所所長。1958年生まれ。明治大学卒業。企業や個人のメンタル対策に携わる。著書に『不安遺伝子を抑えて心がす~っとラクになる本』がある。
 
枝川義邦(えだがわ・よしくに)
早稲田大学研究戦略センター教授。1969年生まれ。脳科学を専門として、人材を生かした組織の研究も行う。著書に『「覚えられる」が習慣になる! 記憶力ドリル』など。
 
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