もちろん「満州からの引き揚げ者による『闇市』の雰囲気を今に残す、都内唯一の存在」(二木氏)であるアメ横の人気は今も高く、年末には1日約50万人の人出がある。JR御徒町駅や東京メトロ・上野広小路駅で降りてアメ横に向かうお客も多いが、それに加えて、山からの回遊客に期待を寄せるのだ。

「古くて怖い」から「明るく楽しい」へ

「上野には変えてはいけないものがあります。由緒ある建造物や歴史の舞台となった名所旧跡です。観光連盟はこうした歴史遺産を守りながら街づくりに取り組んでいます」

二木氏が言うように、もともと上野は、歴史の授業で習った場所だ。徳川幕府の菩提寺だった寛永寺には15代将軍のうち6人の墓があり、彰義隊の本陣は上野松坂屋(当時は伊藤呉服店)に置かれた。同店の近くには存在が確認されるカフェとして国内最古の「可否茶館」跡もあり、昭和2年の地下鉄開通(現東京メトロ銀座線)は「上野-浅草」だった。

赤ちゃんパンダ誕生をアピールする店頭風景

「そうした歴史や名所旧跡があるので、現在の渋谷のように、再開発で街を一新させることはできません」(二木氏)。

一方で課題も残る。たとえばアメ横は、昔の「食品販売の街」から「衣料品など多様化した街」となり客層も変わった。商品の対面販売という伝統を守らずに、イスを並べて食事を提供する店もある。別の商店街では“ぼったくり問題“も起きた。「警察と連携して浄化に乗り出していますが、完全な根絶とはなっていません」(二木氏)。

「古くて怖い」というイメージを払拭し、「明るく楽しい街」に変えるのも観光連盟の使命のひとつだ。

上野の街頭で配布されたパンダのお面

実は、「浅草」「上野」という二大観光地を持つ東京都台東区の年間観光客数は5000万人を超える。近年の伸びは著しく、5年前に比べて約1000万人も増えており、「京都」に匹敵する数字となった。5000万人のうち800万人がインバウンド(外国人観光客)だという。浅草と上野は「江戸情緒」や「昭和レトロ」で競い合う間柄だが、二木氏は「上野のほうが交通アクセスもよい」と自負心を示す。

「インバウンドの来日目的も『爆買い』から『爆体験』に変わってきており、かつては上野公園で花見をしながら酒を飲む日本人を不思議そうに見ていた外国人が、今では率先してお花見をする姿も目立ちます」(二木氏)

「パンダの経済効果」は267億円

そんな上野にとって、「通年見学できる最強コンテンツ」が赤ちゃんパンダなのだ。

「赤ちゃんパンダには、誰もが癒されるような愛らしさがあります。1986年に無事に育った『トントン』の名前募集には27万通を超える応募があったそうです。でも2012年に生後6日で死んだ苦い思いがあるので、心配しながら成長を見守っているのが本音です。関西大学の宮本勝浩名誉教授の調査では、上野動物園でパンダの赤ちゃんが生まれたことによる全体の経済効果は267億4736万円と試算されました」(二木氏)

今年は上野動物園にパンダが来園して45年。赤ちゃんパンダの一般公開は年明けの予定だ。濃密に関わるうちに「顔もパンダに似てきた」と言われるようになった観光連盟会長は、赤ちゃんが順調に育つニュースを横目に、次なる振興策を考えている。

高井 尚之 (たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント。1962年名古屋市生まれ。㈱日本実業出版社の編集者、花王㈱情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。
(撮影=プレジデントオンライン編集部)
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