アメリカの「知りたい」運動

もうずっと以前のことになるが、アメリカの市民団体を取材したときを思い出す。その市民団体はいろいろな製品について、「会社内の女性の重役比率」「軍需産業とのかかわり」「環境保全策」「社会貢献度」などさまざまなことを調べて、その情報を消費者に知らせることで、「この製品を買いましょう」といった活動をやっていた。買い物を通じて世の中を変えていこうという運動だ。

こういう有用な情報こそ、まず消費者が知りたい情報だろう。そして、その有用な情報を商品の購買に結びつける活動こそが、本当の意味での知りたいことに応える活動のはずだ。

つまり、製品を選ぶときに大切な情報は、原料原産地以外にたくさんあるということだ。日本の消費者団体はそういう緻密な議論をせずに、ここぞとばかり「選択」や「知る権利」を持ち出しているように見える。

天から降ってきた政治決定

そういうもやもやした気持ちを抱いていたところ、2016年6月、いきなり「すべての加工食品に表示義務」が検討会で決まってしまった。政府の閣議決定を受けての政治的な判断だった。それ以降、検討会は天から降ってきた決定を覆すことはできなかった。

その結果、苦肉の策として出てきたのが「A国またはB国またはその他」(「または表示」と呼ぶ)、「輸入、国産」(「大くくり表示」と呼ぶ)、「国内製造」(製造地表示)などの例外表示だった。

今度の表示の基本原則は「原材料に占める1位のものについて、その重量割合の順番に国名を表示する」(国別重量順表示)というものだが、現実には原材料の産地は頻繁に変わるため、実行可能性を確保するためには、検討会としても、例外表示を認めるしかなかった。

消費者団体から見れば、全加工食品を対象にすることに賛成した結果が、この例外表示というお化けだったわけだ。結局、今年3月、例外表示を認めた食品表示基準改正案がまとまった。

99%の消費者は理解不能

この例外表示の分かりにくさは天下一品だろう。

もし街頭インタビューで消費者に「A国、B国、その他」と「A国またはB国またはその他」の違いが分かりますか?という質問をしたら、正しく答えられる人は100人中1人か2人だろう。いやゼロかもしれない。

私自身、これだけ取材していて、的確に答えられる自信がないほどなので、いくら消費者庁が表示制度の普及・啓発に努めると言っても、一般の消費者が正しく理解するのは不可能に近いと断言できる。

なにしろ、この例外表示は、多くの消費者団体からも、誤認を招くと言われているほど、あいまいで分かりにくい。分かりにくいから、別の表示方法(インターネットでの情報提供など)を考えましょうというなら理解できるが、そうではなく、その分かりにくさを法施行後に教育と啓発で理解してもらおうという前代未聞の表示制度なのだ。

そんな粗雑で混乱を生む表示制度なのに、「何の表示もない現在よりは、一歩前進」と述べた消費者代表が検討会にいたのには驚いた。私から見れば、混乱を生む要素があり、一歩後退だ。