倫理が問われないままにエディットが進む

【ばるぼら】SNSは利用者ごとに見えるものが違うので、他の人々からはそれぞれの文脈は見えにくい。巨視的に見るとバラバラな情報が膨大に流れているということになる。そこに無理やり第三者が文脈を与えるのが、TogetterとかNAVERまとめみたいなシステムですよね。10年代初頭の「キュレーションの時代」というのは実現してみると「TogetterとNAVERまとめの時代」ということになってしまった(笑)。

バイラルメディアを持ち上げる人たちは「Googleみたいな検索エンジンはスパムだらけでノイズが多い。これからは自分たちの主体的な判断にのっとって情報を得ていくのだ!」みたいなこと言いますよね。主体的な判断って、せいぜい興味があるからシェアするとか、そういうレベルの話なんですけど、その「主体」はまとめサイト的なものにものすごく簡単に操作されてしまう。結果、シェアしたくなる、ひとこと言いたくなるどうでもいいニュースばかりがどんどん増殖していった。

【さやわか】情報があまりにフラットに流通しすぎると、だんだん人は何か指標みたいなものを求めるようになっていってしまうんですよね。前回も話題になりましたけど、ゼロ年代の後半から10年代にかけて2ちゃんねるのまとめサイトみたいなものがどんどんできていって、2ちゃんねるのVIP板の嫌韓・嫌中の情報がまとめられて一人歩きしていくようになった。その結果、現在のようなネトウヨ的なものの台頭状況が生じてきました。

あれだって言ってみればキュレーションですからね(笑)。好みの情報をまとめてくれてるわけですから。情報をエディットすることの倫理が問われないままにエディットが進んでいくことの恐ろしさなんですよ。

「商売するなら俺たちに金を払え」

【ばるぼら】倫理無視でキュレーションをやるとこうなりますけど何か? というね(笑)。2ちゃんねるのまとめサイトがどんどん台頭していった時期には、さすがにちょっとまずいんじゃないの、という空気がありました。けれど、インターネットはそれを抑制する方向には向かわずに、むしろ拡大する方向に向かっていた。2ちゃんねるがまとめサイトに転載禁止の通告をした時も、名指しでやったのは5サイトくらいで、あとは全然大丈夫でしたからね。

【さやわか】そんな風に、まとめサイトにはメディアとして大きな問題があるじゃないですか。実際にトラブルも起こっている。DeNAが運営するキュレーションサイトが悪質だというので相次いで閉鎖しましたけど、佐々木さんをはじめとしてこのへんを持ち上げた人たちは誰も責任を取ろうとしない。悪いのはDeNAだという感じで、NAVERまとめもさほど追求されない。みんな、次に儲かりそうな仕組みを紹介するだけなんです。そもそも2ちゃんねるが転載禁止と言ったのも商業的な動機で、「まとめサイトがアフィリエイトで稼いでいるのに、自分たちにみかじめ料を払っていなくてけしからん!」というのが理由ですからね。単に「商売するなら俺たちに金を払え」っていうだけのことなので(笑)。

【ばるぼら】「けしからん!」と言っても、そこに倫理的な価値判断が働いているわけではないんですよね。そう考えると、いま残っているのはGoogle的なソフトな環境管理型権力か、バカみたいなキュレーション/バイラルメディア。どっちに支配されるのがマシなのだろうか、という究極の選択ですね。

ばるぼら
ネットワーカー・古雑誌蒐集家・周辺文化研究家。20世紀生まれ。インターネットおよび自主制作文化について執筆、調査・研究を行う。著書に『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』『ウェブアニメーション大百科』(共に翔泳社)、『NYLON100%』『岡崎京子の研究』(共にアスペクト)他多数。共著に『20世紀エディトリアル・オデッセイ』(赤田祐一との共著/誠文堂新光社)、『定本 消されたマンガ』(赤田祐一との共著/彩図社)などがある。。
さやわか
ライター・評論家・マンガ原作者。1974年北海道生まれ。大学卒業後は、個人ニュースサイト「ムーノーローカル」を運営(1999年~2001年)しつつ、音楽業界・出版業界での会社勤務を経て、ライターとして執筆活動を開始。小説、マンガ、アニメ、音楽、映画、演劇、ネットなどについて幅広く評論する。著書に『僕たちのゲーム史』『一〇年代文化論』(共に星海社新書)、『キャラの思考法』(青土社)他多数。マンガ原作に『qtμt キューティーミューティー』(作画・ふみふみこ/スクウェア・エニックス)がある。
【関連記事】
「Webを作った男」が懸念する3つの問題
「SNS」でお宝情報を手に入れる人、デマに踊らされる人
なぜ、ごく普通の人が過激な書き込みをするのか
ネットで恥ずかしい写真を晒されたらどうすべきか
もう疲れた。SNSのやめどきはいつか