もちろん、この結果は機械的な計算による最大値である。サービス残業が含まれている可能性や、上限適用の対象とならない管理職や研究開発職、建設業、運輸業の労働者が含まれている点などを考慮すると、追加的に必要となる労働力は、平均的な労働者換算で76万人、パートタイム労働者換算で119万人となる。

さらに、企業が労働者間での残業時間の調整や、業務の見直し・効率化などで是正が必要な労働時間の5~7割程度を削減したと仮定すると、追加的に必要となる労働力は、パートタイム労働者に換算して36万人~60万人とみられる。それでも、既に2.8%まで低下している失業率を0.5~0.9ポイントも押し下げる要因となる。

これまでも人手不足が言われながら、少なからぬ企業が労働力を確保してきたのは、子育ての一服した女性の労働参加の増加や、高齢者の定年延長、外国人労働者が増加したためであった。今後は、女性の労働参加の増加余地も徐々に限られ、こうした中で長時間労働の是正による労働需要が加われば、人手不足は一層強まることになる。

変化するライフスタイル

人手不足が強まれば、賃金に上昇圧力がかかるが、一方で、人手不足が深刻化すると供給制約の問題が懸念される。人出不足からサービスの供給などが滞れば、我々のライフスタイルが見直しを迫られる可能性もある。宅配便の配送時間の見直しや、一部のファミレスやコンビニでの営業時間の短縮は、少子高齢化で深夜就業をいとわない若年の労働力の供給減少に加え、深夜就業などの厳しい環境であえて働く必要性が低下していることも関係しているとみられる。

深夜営業だけでなく、土日の営業などからも撤退が進めば、我々の生活は不便になるだろう。同様に深夜就業を求められる警備員などが不足し、サービスの供給が滞れば、夜間の治安への影響も懸念されるかもしれない。介護士の不足で介護サービスの供給が滞れば、制度利用と家族の役割の見直しも必要になるだろう。

解決策はあるのか

もちろん、サービスの供給は労働力だけで決まるわけではない。生産性を高めることやイノベーションで解決できる問題もある。実際、「Amazon Go」のように無人コンビニの展開に向けた動きもある。人手不足への懸念が強い運輸業では、高速道路におけるトラックの無人走行の技術開発が進んでいる。建設業では公共施設の保守点検にドローンを活用する試みが始まっている。

また、労働投入という観点では、賛否はあるかもしれないが、外国人労働者の受け入れも、人手不足の問題を緩和するだろう。外国人労働者は、ここ数年で大きく増加している。イノベーションで対応できない問題もあるため楽観はできないが、我々の工夫次第で解決できる問題は増えていくはずだ。

渡邊 誠
三井住友アセットマネジメント シニアエコノミスト

1974年、東京都生まれ。一橋大学大学院 国際企業戦略研究科修士課程修了。98年慶応義塾大学経済学部卒業後、第一生命保険入社。第一生命経済研究所経済調査部、ドイツトレーニー、ロンドン駐在などを経て、2012年1月BNPパリバ証券入社、経済調査部シニアエコノミストとして勤務。16年2月より現職。エコノミスト便り(http://www.smam-jp.com/market/economist/
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