偉人伝にはないお金のエピソードの宝庫

「この3人ほど、お札のカオにふさわしくない人たちはいませんよ」と語るのは歴史家・作家の加来耕三氏だ。

まず諭吉は『瘠我慢の説』という論文で、勝海舟を批判している。「徳川のため江戸城無血開城をしたあなたが、新政府の高官になるとは恥ずかしくないのか。二君にまみえずという言葉を知らないのか」というわけだ。

しかし攻撃の本当の理由は、諭吉の個人的な恨みではないか、と加来氏は推理する。

「諭吉は慶應義塾が倒産しかかったとき、勝海舟に借金を申し込み、それを断られています。それ以来2人は仲が悪かった」

さらに、一葉も英世も、偉人伝にはないエピソードの宝庫だという。

一葉は吉原遊郭のそばで駄菓子屋を営んでいたが、やがて遊女たちの恋文の代筆を引き受けるようになった。彼女たちから男を手玉にとる手練手管を学んだ一葉は、独自の占いで相場を当てる久佐賀義孝(くさかよしたか)という人物に借金を申し込む。そして、相場の張り方も久佐賀に教えを請うたという。久佐賀から「月15円出すから妾にならないか」ともちかけられた一葉は、迷う気持ちを日記に記す。

「ところがその次のページから、一葉の妹によって日記が破り取られているんです。これは人に言えないことが書いてあった、つまり妾になったと見るのが妥当では――」(加来氏)

加来氏は英世についても、「ことお金については、こんなダメ人間はいない」とバッサリ。

英世には、血脇守之助(ちわきもりのすけ)という支援者がいた。血脇は奥さんの着物を質に入れて英世の渡米費用をつくるが、英世はそれを悪所通いや仲間とのどんちゃん騒ぎで使い果たす。さらには渡米費用を出してもらう条件である令嬢と婚約するが、その持参金すら放蕩で散財する始末。

英世に大金を持たせてはいけないと学んだ血脇は、英世を船上まで送っていき、「野口君、アメリカに行ったら頼る人はいないんだぞ」といって金を渡してから送り出したという。