そこにいるその人をどう活かすかを考える
田口さんは理解ある家族や親しい友人に恵まれたが、初めて会う人には緊張するという。会食の場などで「独身なんですか」「彼女はいないの?」などと聞かれると返事に窮してしまう。
誰にも打ち明けられず悩む社員も少なからずいた。そうした当事者の声を集めて人事部のオーストラリア人のディレクターに相談すると、日本のJ&Jグループの社長会で協議されて、LGBTに関するグループ設立の許可が下りたのである。
15年10月に日本で「O&O」を設立。最初は8人のメンバーで事務局をスタートし、LGBTの理解者を増やすことを目指した。2016年4月には社内のカフェテリアでカンファレンスを開催。経営陣も合わせて100人以上が参加し、盛況となった。
「LGBTは“サイレントマイノリティー”といわれ、その存在は見えにくいけれど、実は身近にいることを伝えるのが一番大きなテーマでした。まずLGBTとは何かを理解してもらい、より良い職場環境にするためにできることを皆で話し合いました。カンファレンスを終えてメンバーは40人ほどになり、少しずつですが、理解者が増えています」
こうした活動が支えられる背景には、社内で推進する「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みがある。日本のJ&Jグループの人事統括責任者である坂口繁子さんはその方向性をこう語る。
「多様な人材が力を発揮できる組織づくりに取り組むなかで、日本でもこの数年、非常に力を入れているのは女性のリーダー育成です。20年までに女性社員の割合を40%に増やし、女性リーダーの割合を30%まで向上させることを目標にしています」
05年に始まった「WLI」は女性のリーダーシップを推進するグループで、プレジデントと人事部のサポートを受けて、社員有志が運営している。年1回開くカンファレンスでは「アンコンシャス・バイアス(無意識のうちに生じる偏見)」などをテーマに、ワークショップを行ってきた。
さらに2015年発足した「O&O」によって、人事に携わる坂口さん自身も大きな気づきがあったという。
「LGBTという言葉は聞いていても、社内でもその存在に気づかない人がほとんど。女性の問題と比べると関心は極端に低かったと思います。しかし、本来、ダイバースな状態とは性別だけでなく、年齢も違えば外国籍や障害者など多様な人がいて、いろんな働き方があって良いということ。つまり、そこにいるその人をどう活かすかを考えて、それを実現するための機会をつくることが私たちの役目。そのためにはモノの見方を変えることが重要」
LGBTに関しても、まずその存在に気づき、当人が抱える問題を理解したうえで、どうしたら会社の中で活かしていけるのかを考える。支援する制度やガイドラインも必要だが、最終的には現場を率いるマネジャーのリーダーシップが鍵になるという。