江戸都市生活者に学ぶ「老後をひとりで生きる」知恵
年金も低く、仕事のペイも安く、金利さえゼロ。
そんな時代を生き抜こうとする時、江戸の庶民の生き方が実はとても参考になる。
江戸の庶民の生き方の知恵……それは、独り身でいること。
家族を持つから、家や、車や、財産や、社会的なステイタスが欲しくなる。そこを諦めてしまえば、辛さが逆に面白味になる――こともある。
男性の生涯未婚率が31.9%、女性は23.3%(2024年度統計)。さらに3組に1組は離婚する今の時代、もはや、ひとりで生きていくことは普通なことではないか。
少し以前の世の中では、「家庭を持って暮らすことが、あたり前」と思われていた。しかし、それがあたり前になったのは意外に新しいことで、実は明治時代以降のこと。
江戸時代には、家庭を持って暮らすのは、武家や農家、財産のある商人など、特定の人びとに限られていた。都市に住み、ごく普通に暮らす庶民の男女の多くが、ひとりで暮らし、そしてひとりで死んでいったことは、意外と知られていない。
家庭をもたない生き方が普通だった
南和男氏の『江戸の社会構造』(塙書房)では、享保6(1721)年の江戸の町人人口は約50万人で、男性約32万人、女性約18万人だった。これでは、特に男性は、相方をみつけることは難しい。基本的に「家庭」を持たねばならなかったのは、財産を受け継ぎ、受け継がせていく人だ。
武家は、その家に代々与えられた「家禄」を次代に引き継ぐのが最大のミッションである。たとえ戦場で命を落としても、その功が認められて子や孫に高い禄が与えられれば、故人としては本望なのだ。だから、死ぬことを厭わないし、卑怯なことをして命を惜しむことを嫌うのである。
土地持ちの農家も、農地を次代に引き継ぐことが大切だし、商家も、財産や利権を引き継いでいくのが基本的な営みである。
逆にいえば、そして極論をいえば、次代に引き継ぐ財産が無ければ、家庭を持ち、子供を持つ必要なんかないのだ。
江戸っ子は「三代続いた」ことを自慢するものだが、それは都市人口の増加が地方からの流入者によって支えられていたことへの反撥であって、商家に奉公にあがった小僧や、腕を見込まれて地方から招かれた職人など、都会人の一世が実はうようよしていた。