自制心があると、なぜ、学力が伸びるのか?
ところで非認知スキルが伸びると、なぜ、学力が伸びるのか。
それは、自制心や社会性がある子は、学校で先生の話にしっかり耳を傾け、懸命に勉強したり、スポーツや習い事をしたりすることができるからだ。
「重要なことは、自制心や社会性が伸びると学力は伸びるけど、その逆はないということです。学力が伸びたからといって、必ずしも自制心や社会性などの非認知スキルが高くなるわけではありません。子育ての順番としては、非認知力を鍛えるほうが先なのです」(中室准教授)
このことは前出のヘックマン教授によるジェネラル・エデュケーショナル・ディベロップメント(GED)テストの研究でも明らかになっている。
「GEDテストは日本の大学検定にあたるもので、高校中退者が高校卒業資格を得るために受験します。GED合格者は学力については高校卒業者と同程度であるはずなのに、収入は高校中退者と同程度にとどまっています。この原因と考えられるのが、非認知スキルの低さ。実際にGED合格者の非認知スキルを計測すると、GEDテストを受けていない高校中退者とほぼ同じでした」(中室准教授)
私たちは学校には学力を伸ばすために通っていると思っている。しかし本当は、学力よりも大切な非認知スキルを鍛えるために通っているのだ。
雨の日も風の日も休まず学校に行って、退屈な授業を聞いたり、課題を期日どおり提出したり、反りの合わない友人とも話を合わせて付き合ったり。そういった「日常」に重要な意味がある。このことは、ぜひ、わが子に教えてやりたい。
「一般的に偏差値の高い大学に行けば、将来の収入も高くなると思われています。実際に社会調査を行うと、そのような傾向にあります。しかし、これは収入が高くなる別の要因がある優秀な人は勉強もできることが多いという“相関関係”で、勉強ができると収入が上がるという“因果関係”ではないことが明らかになっています。因果関係とは、『原因⇒結果』になる関係。教育分野には相関関係を因果関係と勘違いした言説が数多くあり、そこを見誤ると間違った指導をすることになるので注意が必要です」(中室准教授)
学力と収入の関係については、中室准教授の新著『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社)に詳しい。「テレビを見せると子どもの学力が下がるというのは、間違いである」など、目から鱗の情報が満載だ。