人は何g増えたら、「重くなった」と感じるのか?

ドイツの生理学者エルンスト・ヴェーバーは1834年におもりを持ち上げる実験で、おもりの重さの変化を感じ取る感覚は、何g増えたかといった差ではなく、何倍になったかという比に依存していることを示しました。

これは、後に「ウェーバーの法則」と言われます。

【ウェーバーの法則】
弁別閾(気づくことができる最小の刺激差)は、原刺激の値に比例している。
△R(弁別閾)/R(刺激量) =K(定数) 
 (K=ウェーバー比)

ある強さの感覚刺激をRとし、△Rだけ強めるか弱めるかして変化させたときに初めてその刺激の強度の相違が識別できたとします。この場合の△Rを弁別閾値といいます。そして、「△R/R=K(一定)」というこの法則は、重さ・音・明るさなど五感の多くで(中等度の強さの刺激に対して)成立します。

例えば、重さのウェーバー比が0.02だとします。

指先に100gのおもりを載せ、1gずつ加えて重くしていって何g加わったら「重くなった」と感じるかを調べます。その場合、2g増えたときに重さの変化に気づくのに対して、最初の重さが200gのおもりだと2g増えただけでは重さの変化に気づきません。この場合、200gにウェーバー比の0.02をかけて4g追加しないと重さの変化に気づくことはないということです。

つまり、重さの変化は同じ2gの差であっても、最初に持っているおもりの重さによって感じ方が違うということです。また、弁別閾以下の数値が加わったとしても人にはその差が感じ取れないということです。

そして、お金の場合にもウェーバー比が一定だとすれば……。仮に1000万円の資産を持っている人にとって弁別閾が10万円だったとします。でも、10億円の資産を持っている人に同じ10万円が増え10億10万円になっても「お金が増えた」とはとても感じられないということです。仮にウェーバー比が0.01だとすると、10億円持っている人は1000万円お金が増えないと増えたと感じられないのです。

確かに、外的なお金の増加は10万円という客観的な数値(購買力)で測ることができますが、それは誰にとっても同じ感じ方(金銭感覚)であるわけではなく、保有する資産が大きくなれば小さなお金の増加を嬉しいと思うことはないということです。

大きな資産を持つ人にとっては、前出のカーネマンのいう「所得が増えるほど生活の小さな他の楽しみを味わう能力が減ってくるのではないか」ということが該当し、違いを感じるためにはより大きな資産の増加が必要だということになります。