名前は変わりましたが、基本的内容は05年、09年に廃案になった共謀罪と同じですね。

「いえ、組織的犯罪を目的とする団体とは何か、どういう団体がそれに当たるのか。犯罪の実行主体の特定がされましたし、対象犯罪も絞り込まれました。なにより普通の人が嫌疑を受けることや、罪に問われる危険性を極力排除しなければなりません。ただ、これまで全部必要だといっていた対象範囲を絞り込んだわけですから、それはなぜか。明確な答えが必要ですし、国会で明らかにされることだと思います。

そして法律的な議論を精緻にする必要がありますね。例えばハイジャック犯が飛行機の切符を買っても今の法律では対処できないという例が引き合いに出されますが、そうでしょうか? ハイジャック防止法には未遂罪があります。しかし、着手していなければ未遂にはなりません。では、実行行為に着手したというのはどこからなのか。また、共謀共同正犯と紛らわしいのですが、共謀共同正犯は犯罪行為が実行されたことが要件です。その前になんとかしようというのがこの法案ですが、では、準備行為があったときに違法性が上がる根拠は何か。国民がなぜだろうと思うことに、一つ一つ丁寧に答えなければいけないでしょう」

法案に懐疑的だと、テロを許すのか、みたいな乱暴な意見も飛び出します。

「社会の安全を守ることと、国民の思想信条の自由を守ることの接点はどこかということですよね。それは数学や物理じゃないから明確な接点があるわけではない。どれだけ多くの人が納得するかということでしょう」

個人の権利を制約するのですから入念さが求められますよね。あらためて法律って重要というか怖いですね。

「だから、この国は罪刑法定主義に貫かれているのであって、何が犯罪になって、何がならないかということを国民の前に明確にするのは憲法の要請でもあります」

法案が成立すると、警察の情報収集範囲や捜査方法が広がり、情報を得やすくなるということですか?

「いや、それは次の段階。どこで誰がどんな謀議をしているのかという情報を捜査機関が得るのは、なかなか難しいですよね。わが国の通信傍受法は他国と比べてそれほど厳格ではないところもあります。だから市民の人権、思想信条の自由を守りながら、なおかつ捜査機関が組織犯罪をきちんと摘発できるような体制づくり。次の議論はそこでしょうね」

緊急事態であれば、別件逮捕すればいい、という意見も耳にしますが。

「いや、それはやるべきではない。そもそも別件逮捕だって、なにも犯罪を構成していなければできません。罪のない人を捕まえていいわけがない」

法案への賛成、反対の意見を聞いても、互いに極論を言い合うだけで議論が深まっているとは思えません。

「最近は何でもそういうところがありますね。特定秘密保護法にしても、安全保障法制にしても、極端と極端の議論が並行するばかりで、与野党で一致点を見いだそうというところが見られないのは残念なことです」