DV全体の約4割が「妻から」のデータも
夫婦間のドメスティック・バイオレンス(DV)は、統計などを見ると圧倒的に夫から妻への暴力が多い。警察庁の調べ(2004年)では、DV被害の99%は女性で、男性の被害はわずかに1%しかない。
しかし、興味深いのは東京都の調査(09年)だ。08年7~9月の3カ月間に、都のDV相談窓口に寄せられた電話相談を分析したところ、39.3%が妻からの暴力を訴えるものであったことが明らかになった。また内閣府の調査(06年)では、夫婦間の暴力があった場合、約53%の妻は専門機関など誰かに相談するのに対して、約84%の夫はまったく相談しないという。つまり、妻から暴力をふるわれる夫は潜在的に多いと考えられるのだ。
実際に、地方自治体の相談窓口に寄せられた男性からの相談をいくつか紹介しておきたい。例えば、東京都の出先機関(東京ウィメンズプラザなど)には「殴られて肋骨を折った」「熱湯をかけられた」「首を絞められた」など身体的暴力だけでなく、「もっと働け、クズ」「甲斐性なし」などと怒鳴られる精神的な暴力もあったという。
男性の場合、そもそも夫婦間の問題を第三者に相談するのが恥ずかしい、世間体が悪いという理由から、一人で耐えてしまう場合が多い。ところが、それは妻からの暴力をエスカレートさせてしまいかねない。
とはいえ、DVに関連する法律(DV防止法=配偶者暴力防止法)は、主に女性が被害者であることを前提にしているので、被害女性を守る仕組みとなっている。相談員も婦人相談員が想定されており、配偶者暴力相談支援センターの機能を果たすのも多くは婦人相談所だ。しかし、男性の相談も受け付けており、東京都では男性専用の相談日も設けている。
妻から暴行を受けたときは、警察に相談に行くことだ。できれば医者の診断書も添えて被害届を出しておく。ケガの程度が軽く、警察は夫婦喧嘩の延長程度の認識であっても、相談だけはしておくことだ。なぜならば、事前に相談しておくことで、妻からの暴力がさらにひどくなったときに、裁判所を通じて一時的に保護を受けたり、妻に対して夫への接近禁止命令を発令することなどが可能となるのだ(図参照)。
また、妻から暴行を受け、これを避けようと妻の腕をたまたま強く握ったにすぎないのに、逆に妻から暴行や傷害で警察に被害申告された例もある。身を守るためにやった行為が、刑事罰の対象にされてしまったのだから、当人は踏んだり蹴ったりだ。
暴行や傷害の被疑者になってから、「実は妻の暴力が」と説明しても、にわかに信じてはもらえない。妻から暴力を受けていることを日頃から警察に相談していれば、そんな理不尽な扱いを受けることにはならなかったはずだ。密かに録音、録画で証拠を残しておけば、疑われる余地はない。
※すべて雑誌掲載当時