派遣の収入から妻にお小遣い1万円
宮澤上(のぼる)氏(67歳・写真右)は7年前に東京ガスを定年退職。現役時代は技術職や営業を手がけてきたが、今は派遣社員として東京ガスの関連会社のショールームで、ガス器具の販売や客のリフォームの相談にのっている。派遣社員の年収は約90万円。年金を合わせると世帯年収は481万円になり、高齢者世帯の平均総所得302万円(2006年、厚生労働省調べ)と比べても夫婦2人の生活の宮澤家にとって、十分に余裕のある収入だ。
定年前は「定年後は働かない」と宮澤氏は全く再就職は考えず、完全リタイアを決めていた。「なにしろそれまで、一生懸命に働きに働きましたから」と頑張ってきたサラリーマン人生を振り返る。
高校を卒業して2度転職を経験し、何度か転勤もした。その間、男女4人の子どもを育て上げ、3人は大学まで卒業させた。マイホームの住宅ローンは55歳のときに払い終え、子供たちも独立したので定年のときには夫婦2人が暮らしやすい家に建て直した。建築費はそれまでの蓄えで賄い、退職金は手をつけずに済んだ。
定年後、次女夫婦の孫の世話をして、1年が過ぎた。娘が仕事を辞め子育てに専念することになり、宮澤氏も何かを始めようと考えていた矢先だった。60歳以上の高齢者を専門に人材派遣する「高齢社」から、仕事が舞い込んできた。ハローワークに行くこともなく、現役時代の腕と知恵を活かせる職場が決まったのだ。
「定年後は毎日が日曜日みたいなものだから、現役の人が避けたがる休日出勤も気になりません」と話すように、勤務は週に3日で、1日は休日出勤が入る勤務シフトだ。高齢者を受け入れる企業側も休日の時給の割り増しは不要だし、企業人としての経験は豊富だから、専門的な業務でない限り教育コストはかからないのが魅力だという。
さらに高齢者にとって働く意味は、お金はもちろんだが、人や社会とのつながりを持つことのほうが大きい。宮澤氏もこう話す。
「家にいたのでは、情報はテレビや新聞だけに限られますが、勤めていれば若い人といろいろな情報交換ができる。電車で通勤するのでファッションにも気を配り、買い物に行っても自分のおしゃれが気になります」