「世界的な価値連鎖の時代」へ
いわゆるグローバリゼーションが本格化する前、70年代の各国の製造業は、部材から完成品まですべて、国内で調達・生産し、完成品を海外へ輸出していました。それが現在、例えばパソコンであれば、ロシアで採掘されたシリコンが韓国でインゴット(金属の塊)に生成され、日本でウェハー(半導体でできた基板)に加工され、アメリカで回路が書き込まれ、フィリピンでパッケージ化され、中国で最終組み立てを行い、ヨーロッパで販売されています。このように、国境を越えた多数の企業が連携して1つの製品やサービスをつくり上げることにより、強みを発揮することが当たり前の時代になっています。これを私は、「世界的な価値連鎖の時代」と呼んでいます。
この変化は、日本企業の強みが小さくなった理由の1つでもあります。かつての日本では、完成品メーカーが自社を頂点とするサプライヤーネットワークを国内に構築し、製品を作ってきました。日本の完成品メーカーが強かったのは、国内の優れたサプライヤーとの密接な関係があったからともいえます。しかし近年、アップルやサムスンなどの国外企業が、国境を越えて日本国内のサプライヤーを探し出し、積極的に活用しています。バリューチェーンが国境を越えて再編成され、結果として日本の完成品メーカーは相対的な競争力を失いました。
実際、シャオミやテスラが急成長した理由の1つに、創業初期に国内外のサプライヤーとの関係構築に多くの時間を費やしたことが挙げられます。小さな企業でも、大企業をいわば「下請け」として活用することで、短期間で大手完成品メーカーに匹敵する商品の大量生産が可能となりました。世界中の優れたサプライヤーと手を組み、国境を越えたバリューチェーンを築くことで、小さな企業でも大企業と互角に勝負できる時代が到来したのです。
しかし、誰でも優れた経営資源にアクセスしてモノやサービスを提供することが容易になった分、持続的な競争優位を築きにくくなったのも事実です。例えばスマートフォンでは、サムスンが急成長するも、すぐにシャオミのような次の世代がそれを追い抜きました。そしてシャオミもまた、OPPOなど次の世代に追いつかれつつあります。急速に成長できる世界になったと同時に、持続的な競争優位を獲得することも、極めて困難な環境になりました。