厚労省の調査によると、心筋梗塞など虚血性心疾患で急死した人々は、「眠っているとき」が約30%、「休憩中」が約17%、「仕事中」が約10%などとなっている。
私が心筋梗塞の体験者の方々を取材したときは、「会社に出かけようとして玄関先で」「昼食後」「夕方、車を運転していたとき」「夜、眠っていたとき」など、千差万別だった。まさに心筋梗塞はいつ起きても不思議ではない。
そのサインは「胸が締めつけられるような痛み」「背中が痛い」「のどの下あたりにドーンといった痛み」などのほか、「胃の痛み」といったケースもある。なかでも死に直結するのが急性心筋梗塞である。正しくは胸痛などの発作が起きて1カ月以内のものをいう。
急性心筋梗塞では急性期の死亡率は20~30%と高い。この怖い急性心筋梗塞は心臓の筋肉に血液を送る冠状動脈が急に詰まることで起こる。
主に悪玉といわれるLDLコレステロールが酸化すると、冠状動脈の血管壁にこびりつく。それを異物と認識したリンパ球のひとつマクロファージ(大食細胞)が食べ、破裂する。
破裂するときに酸化LDLコレステロールが周囲にまき散らかされ、血管が少しずつ厚くなる。その結果、下水管の内側に汚れが付着してグズグズになるのと同様、排水(血液)の通るところが狭くなる。これが動脈硬化である。
さらに、動脈硬化部分がはがれたり、その中で出血が起きて血栓ができてはがれ、狭くなっている部分に詰まると、急性心筋梗塞を引き起こす。
急性心筋梗塞に対する基本的治療としては「血栓溶解療法」と「心臓カテーテル療法(PTCA)」の2つの方法がある。
前者は血栓を溶かす薬を使う。そのために出血が起きやすくなるので、80歳以上の高齢者や胃・十二指腸潰瘍のある人などにはこの治療は適用されない。
後者は、細い管(カテーテル)を使った治療法である。脚のつけ根、もしくは手首の動脈からカテーテルを入れ、狭窄・閉塞部に届いたらバルーン(風船)などを使って内側から広げる。
こうした急性心筋梗塞のほかに、別段どこといって悪いところがないにもかかわらず、急性心筋梗塞で突然死するケースもある。ストレスが大きな原因と考えられる。事実、兵庫県立淡路病院の報告によると、阪神淡路大震災直後に急性心筋梗塞による死亡者数が、過去3年間の同時期と比較して約3倍に達したという。
循環器系はストレスを敏感に反映するので、ストレスの管理には充分に気をつけることも忘れてはいけない。
食生活のワンポイント
心筋梗塞後のリハビリでは、食生活の改善も重要。心臓病食を徹底的に「患者の舌」で覚えこむことだ。
心臓病食では1日の摂取塩分は7グラムに抑えられ、さらに低脂肪、低カロリー。実際、それを口にする患者は「魚の煮物でも食べられたものじゃない。味がついていないんだから」とぼやく。
日本人は1日平均約13グラムの塩分を摂取している。実はこれでは多すぎである。
この点を改善させられるのだが、心筋梗塞になっていない人も、本当はここまで徹底できれば最高。ちょっと無理と思う人は、1日10グラムの塩分摂取を目ざそう。
それには、まずは食卓にしょう油や塩を置かないことだ。加えて、酢の物、カレー味など様々な味つけを楽しむようにするとよい。
そのうえで、肉類を減らして魚、大豆食品を多くする。もちろん、野菜は多くし、全体のカロリーも抑える。
野菜も緑の物だけではなく、赤、黄、紫、黒など、色彩を楽しむようにすると、多くの色素パワーによってLDLコレステロールの酸化がグンと抑えられ、動脈硬化の予防に結びつく。