2014年11月10日に逝去した高倉健を題材にした長編ドキュメンタリー映画『健さん』。同作品が第40回モントリオール世界映画祭のワールド・ドキュメンタリー部門において、最優秀作品賞を受賞した。世界でも指折りの権威ある映画祭での快挙にあたり、ニューヨークを拠点に活躍する写真家であり、同作の監督である日比遊一さんと『高倉健インタヴューズ』などの著書を持つノンフィクション作家・野地秩嘉さんによる対談が行われた。

グランプリ受賞は本当にサプライズだった

【野地】モントリオール映画祭での受賞、おめでとうございました。受賞はいつ決まったんですか?

【日比】まったくもう、サプライズでしたね。というのも、僕はモントリオールで上映できただけで十分にハッピーでした。なぜなら、カナダのモントリオールというのは、高倉健さんが海外で初めて主演男優賞を獲った場所(※)ですからね。だから、会場では「誰がコンペでグランプリを獲るのかな」っていうぐらいのことしか考えてなかったんです。そしたら日本人で最初に呼ばれたのが僕の名前と『健さん』で(笑)。もうビックリしましたよ。

(※1999年『鉄道員(ぽっぽや)』で主演男優賞を受賞)

【野地】実際、モントリオールのドキュメンタリー部門はどのくらい出品されていたんですか?

【日比】23本ですね。今年は、日本からは3本出ていました。こちらから応募しないといけないのですが、応募したら何人かのジャッジがいて絞り込みます。その時点で23本。それで、最後はその中の1本が選ばれるわけですが、そこに僕の『健さん』が選ばれた。

【野地】大変なことじゃないですか。

【日比】世界の映画祭の中でも5本の指に入るくらいの映画祭ですからね。やっぱり嬉しいですよね。実は映画祭への出品が決まったときに審査員の1人が僕に直接電話をかけてくれまして、その方が「とにかく僕は気に入った。だからとにかく(モントリオールに)来てほしい」と言ってきたんです。グランプリを獲る確率も高いって。でも、そんなまさかね。僕も映画祭っていうのは、何ていうんですかね……ある俳優のドキュメンタリー作品がグランプリを獲る例ってあまりないですからね。だから、ものすごく嬉しかったと同時にサプライズだった。

【野地】現地で上映したときの反応はどうだったんですか?

【日比】あ、もうね、すごい拍手を受けましたね。上映が終わってから。実は、質問攻めにあって、2時間くらい会場から帰れませんでしたからね。みんな僕を待ってて。「高倉健さんの映画は、カナダだったらどこで借りられるんだ」って(笑)。申し訳ないが、三船敏郎さんとか渡辺謙さんは知ってるけども、この高倉健という俳優を知らなかった、と言うんですね。

【野地】たとえば『ブラック・レイン(※)』とかですね。そのあたりは、『健さん』の出演者を見たら、海外の人もわかるようになっていますよね。

(※リドリー・スコット監督の映画。1989年上映。マイケル・ダグラス、松田優作なども出演)

【日比】そうですね。だから、日本のファンの人にとっては、たとえば、なんで共演した女優さんたちが出てないんだとか、そういう意見もあるかとは思うんですけども、田中裕子さんや大竹しのぶさんといっても海外では知らない人が多いですから。だから、どちらかというと、「マーティン・スコセッシだとかマイケル・ダグラスが語ってるこの男は誰だ」という……。

「彼らがわざわざ君のそのセットに来て、あんなふうに熱っぽく死んだ人間のことをしゃべってくれるってことは、こちらじゃ考えられない。いくら払ったんだ?」とかね。

【野地】そうだったんですね。でも、本当、実際いくらくらい払ったのですか?

【日比】もう彼らからしてみたらゼロに近いですよ。みんな(※)均一で、本当お茶代というですよ。

(※ジョン・ウー、ポール・シュレイダー、ヤン・デ・ボン、ユ・オソンなども出演している)