生活費を削って奉仕する人たち
『あなたが世界のためにできる たったひとつのこと――<効果的な利他主義>のすすめ』(ピーター・シンガー著、関美和訳、NHK出版)の著者が訴えかけるのは、シリコンバレーや欧米の若者たちにも注目されているという「効果的な利他主義」の重要性。「質素に暮らす」「稼いだお金を寄付する」など、理性と共感とテクノロジーを融合させることにより、“いちばんたくさんのいいこと”をする。それ自体が、よりよい世界を構築するために必要だという考え方である。
偽善的なことのようにも思えてしまうかもしれないが、決してそうではなく、視点がもっと深いところにあることが、本書を読むとよくわかる。「いまという時代に、自分たちがすべきことはなにか」を理解している人たちにとって、「いいこと」をすることはそれ自体が重要なのだ。
しかも、彼らは必ずしも多くのお金を持っているから寄付をするわけではない。生活費を削ってでも、人に奉仕するという人も少なくないのだ。いわば、それが自身の生きる意味であるということ。その思いが決して表層的なものではないことがわかるからこそ、本書に登場する人々には強く共感できる。そしてここには、コミュニケーションのあり方に亀裂が入っている現代社会にとって、いちばん大切なことが隠されているようにも思える。