技術は楽器を自由に使いこなすテクニック

【三宅】レッスンは英語、それともイタリア語ですか。

【横山】英語でした。クルチョ先生は5カ国語しゃべれるんですけどね(笑)。

【三宅】もちろん、技術的な弾き方もあるのでしょうが、演奏に魂をこめるというか、作曲家の思いをどう聴く人に伝えるかといった指導もあるのでしょうか。

【横山】クルチョ先生は、表現するために技術を先に磨くことを優先する人です。

【三宅】毎日、何時間ぐらい練習していたのですか。

【横山】もう時間がある限り。私は小中学生の頃、全然練習しなかったんです。ですから、先生の指導では、初歩からやり直しさせられました。

【三宅】もちろん、基礎訓練も大事でしょうけど、音楽の「天性」は誰にでも与えられるものではないものですよね。

【横山】ピアノに限定して話しますが、技術というのは楽器を自由に使いこなすためのテクニックです。例えば、ピアノでも指の使い方、体の使い方によって、本当にいろんなことができます。それが技術を学ぶということで、そのできることを増やすことによって、自分のパレットに絵の具がたくさん増えていくわけです。

私がしていることは、ショパンなどが遺してくれた曲をソロやトリオの演奏として再生することです。作曲するのではなく、自分のセンスで楽譜から感じとったものをピアノで音に変換しているわけです。その際、表現が白黒だけよりも、多彩なカラーがあって、バリエーションがあって、立体的なほうがいいじゃないですか。その世界をできるだけ膨らますために技術を学ぶということだと思います。

【三宅】それで、イギリスには何年いらっしゃったのですか。そこでは、どんな暮らし方だったのでしょう。

【横山】7年半です。最初の3年間はポルトガル人のおばさんが経営している下宿にいました。そこには、いろんな国から音楽を勉強に来ている学生がいました。そんな人たちとの交流はレッスンとは違った意味での自分の幅を広げる経験でした。

『対談! 日本の英語教育が変わる日』三宅義和著 プレジデント社

【三宅】生活面で困られたこととか、英語のコミュニケーションで悩まれたことというのはないですよね。

【横山】でも、しばらくはイギリスのクイーンズ・イングリッシュに慣れるのに苦労しました。

【三宅】英国王立音楽院在学中にイタリアのイセルニア国際ピアノコンクールで1位なしの2位も受賞されています。しかも、首席で修了されて、最優秀リサイタル賞を受賞。もう学生時代から今日の片鱗を示されていた。

【横山】日本人の音楽家や留学生には、たくさん優秀な方がいらっしゃいます。大きなコンクールとかで入賞している人たちも少なくありません。学業でも、日本人は真面目なので、いい成績で卒業される方がたくさんいます。私は、あくまでもそのうちの1人でしかありません。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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