全体像の共有で、具体的解決法が見える

先ほどの会話例で、システム思考を促すために「時間軸」と「因果関係」を念頭においた質問をしてみましょう。どういったことが起こるでしょうか。

リーダー:どリーダー:状況について情報をありがとう。この状態はいつから続いていますか? もし、この状態が続くと、何が起こりそうなのかな?【時間軸】
A:……始まりは、2カ月前に資料のバージョンアップをした時でしょうか。
D:このままの状態が続いたら、誰もあの資料を使わなくなりますよ。
リーダー:どでは、誰も使わなくなったら、次には何が起こりますか?【時間軸】
C:うーん、来期になったら資料作成チームがまた使いにくい資料を作るんじゃないですか?
A:かといって、資料が無かったら営業活動はやりづらくなります……。

リーダー:そもそも、資料の内容と営業の成績にはどういう関係がありそう? なぜ資料が大事なのかな?【因果関係】
A:説明する時は口頭だけでもいいのですが、顧客が社内で検討する時にはやはり資料が必要だと思います。
C:そこで資料に、顧客にとって本当に必要な情報が入っていないと、渡した後も都度問い合わせが来たりして、営業チームの手間になります。
リーダー:なるほど、皆さんが資料の内容が問題だと思っているのは分かりました。では、こうした問題がどうして起きたのか、何か思いつきますか?【因果関係】
B:もしかすると前回のバージョンアップの時に、私たち営業チームからよい点や悪い点のフィードバックを資料作成チームに対して行っていなかったからかもしれません。
D:そうですね、資料作成チームからはアンケートも来ていましたけど、あまり真剣に書きませんでした。

「時間軸」と「因果関係」を問う質問をすることで、「資料が使えない」という不満だけではなく、問題点のより全体的な構造が浮かび上がってきました。このチームの抱えていた問題では、自分たちのフィードバック不足によって使いにくい営業資料が作られてしまい、その資料を使わなくなることでフィードバック不足に拍車がかかる、という負のループが発生しています。ここまでメンバー内で問題の全体像が共有されていれば、行動計画を立てるのも、それを実行するのも容易でしょう。

チームがチームとして活動し、価値ある働きをするためには、本当に取り組まねばならない問題にチームの視点を向けなければいけません。そして、そのためにはシステム思考的アプローチを使って全体像を把握し、チーム内で共有する必要があります。そして、その共有から、リーダーの指示ではなく、メンバーが自発的に動くことにつながるのです。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。