うまくいかないことがあり、チームでミーティング。しかしいくら話し合っても問題点を挙げるだけで解決にならない――そんな時はリーダーの出番です。メンバーが自発的に解決に動きだすための“ある質問”とは?

チームが「単なる人の集まり」以上の価値を出していくためには、チームメンバー全員が取り組むべき問題を各々の視点から理解している必要があります。しかし、単に情報をメンバーと共有しただけでは、問題の全体像を共有することはできません。なぜなら、メンバーは各々の視点を持ち、提供された情報の異なる部分に目を向けているからです。問いかけによってメンバーが問題の全体像を共有できるようにすること、これこそがリーダーがチームを動かしていくために必要なことなのです。

1つの仕事に対して、メンバーたちが“勝手”な意見を持つのは、それぞれ異なる視点を持っているから。そんな複数の視点を生かしつつ、問題意識を共有し、解決に向けて全員で進んで行くためには、リーダーによる「時間軸」と「因果関係」を問う声がけが欠かせません。

では、異なる視点を持つチームメンバー間でどうやって問題を共有すればよいのでしょうか? そしてどのように異なる視点の価値を生かせばよいのでしょうか? このために有効なのがシステム思考(システムシンキング)です。システム思考とは、目に見えている問題を独立して存在する事象として捉えるのではなく、全体像の中において周囲のさまざまな要素と絡み合う構成要素として捉える考え方です。もっとシンプルに言えば、システム思考とは物事を「点」としてではなく、「面」や「全体」として見る考え方のことです。この視点をチームが持つことにより、個々の視点を離れて問題の全体像を共有することができるようになるのです。

“Operation Cat Drop(猫投下作戦)”という実話があります。1960年代に東南アジアのボルネオ島(カリマンタン島)では、マラリアの感染拡大を防止するためにWHO(世界保健機構)が活動をしていました。そこで採られたのがこの作戦です。

複数のメンバーの視点を使って「全体を見る」

当時、ボルネオ島の奥地では蚊によって媒介されるマラリアが蔓延しており、WHOはその流行を抑えるためにDDT(殺虫剤)の散布を行っていました。しかし、この殺虫剤の散布は当初の目的である蚊を減らすことには成功しましたが、同時に現地の蜂も殺してしまったのです。結果、天敵の蜂がいなくなったことでイモムシの数が増え、人々の住む家ではかやぶき屋根が食い荒らされ、スコールの度にひどい雨漏りが頻発しました。また、現地の猫が毛づくろいすると毛に付いた殺虫剤をなめて死んでしまうという事態も起きていました。結果として猫のいなくなった村ではネズミが増え、そのネズミが作物を食い荒らし……と、殺虫剤の散布がさまざまな悪循環を生み出してしまったのです。これはまさに、全体の関係を見ないで目先の問題解決(蚊の駆除)を行うと別の問題を引き起こすという、物事はつながっていることを示す実話です。

そして、こうした悪循環を止めるためにWHOがイギリス空軍の手を借りて20匹の猫を空輸した、というのが「空から猫が降る」という“猫投下作戦”でした。猫の役割は、作物を荒らすネズミと戦うためであって、感染症予防の目的ではなかったとのことですが、結果はどうだったのでしょうか。

さて、私たちの日常でも、この殺虫剤散布のような直線的で対症療法的対応が物事を悪化させることはよくあることです。しかし、「全体を見る」ということは、1人では難しいものですが、複数のメンバーの視点を生かせば比較的行いやすくなります。ですからリーダーがチームメンバーの異なる視点を引き出し、全員で問題の全体像を見て、その見え方を共有していなければ思うような成果は出せないのです。

物事をシステム思考的に、そして多面的に見るためにはどうしたらいいのか。ここでは特に「時間軸」と「因果関係」という2つの視点を紹介します。

問題点を挙げるだけでは次に進めない!

まず、「時間軸」を問うというのはその事象の過去には何が起こったのか、そして未来には何が起こりそうなのかを問うということです。多くの場合、問題がいきなり発生することはありません。その前兆や経緯のようなものが存在するはずです。同様に、今起こっている問題を解決しようとするなら、未来に何が起こるかを考えねばなりません。

次に「因果関係」を問うとは、問題の原因は何か、そして問題が次に何を引き起こすのかを問うということです。システム思考においては、原因は何かの結果であり、またある結果は何かの原因となります。そうしてシステムの中でループが生まれ、同じことが繰り返されることとなるのです。

私たちがチームとして活動している時、チームメンバーの意識が一面的な事象にのみ向かってしまったらどうするべきでしょうか。リーダーはその時、「時間軸」と「因果関係」という2つの視点から問いかけることにより、メンバー同士で問題の全体像を共有できるように促せます。ある営業チームでの会話例を元に、質問を使ってメンバーのシステム思考を促す方法を見ていきましょう。

リーダー:今日はチームが目標達成をする上での、問題点について話し合いたいと思います。皆さん、何かありますか?
A:実は新しい商品の営業がうまくいっていません。どんなに説明しても、顧客に通じないんです。資料の作り方が悪いと思うので、もっと分かりやすい説明資料が必要だと思います。
B:私もそう思います。今の資料は情報が多過ぎますよ。
C:不要な部分が詳細過ぎたり、逆に大事な情報が抜けていたりして、困るんです。
D:私なんかは、もうあの資料は使っていませんよ。口頭だけで説明しています。

ミーティングの中で資料に対するメンバーの不満が噴出してきました。しかし、この会話例の中ではメンバーは「資料が悪い」という点のみを考えていて、その背後にまで考えを巡らせていません。これでは、本当に大事な要素がどこにあるのか、全体像を共有したとは言えないでしょう。では、リーダーはどのように問いかけていけばよいでしょうか。

全体像の共有で、具体的解決法が見える

先ほどの会話例で、システム思考を促すために「時間軸」と「因果関係」を念頭においた質問をしてみましょう。どういったことが起こるでしょうか。

リーダー:どリーダー:状況について情報をありがとう。この状態はいつから続いていますか? もし、この状態が続くと、何が起こりそうなのかな?【時間軸】
A:……始まりは、2カ月前に資料のバージョンアップをした時でしょうか。
D:このままの状態が続いたら、誰もあの資料を使わなくなりますよ。
リーダー:どでは、誰も使わなくなったら、次には何が起こりますか?【時間軸】
C:うーん、来期になったら資料作成チームがまた使いにくい資料を作るんじゃないですか?
A:かといって、資料が無かったら営業活動はやりづらくなります……。

リーダー:そもそも、資料の内容と営業の成績にはどういう関係がありそう? なぜ資料が大事なのかな?【因果関係】
A:説明する時は口頭だけでもいいのですが、顧客が社内で検討する時にはやはり資料が必要だと思います。
C:そこで資料に、顧客にとって本当に必要な情報が入っていないと、渡した後も都度問い合わせが来たりして、営業チームの手間になります。
リーダー:なるほど、皆さんが資料の内容が問題だと思っているのは分かりました。では、こうした問題がどうして起きたのか、何か思いつきますか?【因果関係】
B:もしかすると前回のバージョンアップの時に、私たち営業チームからよい点や悪い点のフィードバックを資料作成チームに対して行っていなかったからかもしれません。
D:そうですね、資料作成チームからはアンケートも来ていましたけど、あまり真剣に書きませんでした。

「時間軸」と「因果関係」を問う質問をすることで、「資料が使えない」という不満だけではなく、問題点のより全体的な構造が浮かび上がってきました。このチームの抱えていた問題では、自分たちのフィードバック不足によって使いにくい営業資料が作られてしまい、その資料を使わなくなることでフィードバック不足に拍車がかかる、という負のループが発生しています。ここまでメンバー内で問題の全体像が共有されていれば、行動計画を立てるのも、それを実行するのも容易でしょう。

チームがチームとして活動し、価値ある働きをするためには、本当に取り組まねばならない問題にチームの視点を向けなければいけません。そして、そのためにはシステム思考的アプローチを使って全体像を把握し、チーム内で共有する必要があります。そして、その共有から、リーダーの指示ではなく、メンバーが自発的に動くことにつながるのです。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。