複数のメンバーの視点を使って「全体を見る」
当時、ボルネオ島の奥地では蚊によって媒介されるマラリアが蔓延しており、WHOはその流行を抑えるためにDDT(殺虫剤)の散布を行っていました。しかし、この殺虫剤の散布は当初の目的である蚊を減らすことには成功しましたが、同時に現地の蜂も殺してしまったのです。結果、天敵の蜂がいなくなったことでイモムシの数が増え、人々の住む家ではかやぶき屋根が食い荒らされ、スコールの度にひどい雨漏りが頻発しました。また、現地の猫が毛づくろいすると毛に付いた殺虫剤をなめて死んでしまうという事態も起きていました。結果として猫のいなくなった村ではネズミが増え、そのネズミが作物を食い荒らし……と、殺虫剤の散布がさまざまな悪循環を生み出してしまったのです。これはまさに、全体の関係を見ないで目先の問題解決(蚊の駆除)を行うと別の問題を引き起こすという、物事はつながっていることを示す実話です。
そして、こうした悪循環を止めるためにWHOがイギリス空軍の手を借りて20匹の猫を空輸した、というのが「空から猫が降る」という“猫投下作戦”でした。猫の役割は、作物を荒らすネズミと戦うためであって、感染症予防の目的ではなかったとのことですが、結果はどうだったのでしょうか。
さて、私たちの日常でも、この殺虫剤散布のような直線的で対症療法的対応が物事を悪化させることはよくあることです。しかし、「全体を見る」ということは、1人では難しいものですが、複数のメンバーの視点を生かせば比較的行いやすくなります。ですからリーダーがチームメンバーの異なる視点を引き出し、全員で問題の全体像を見て、その見え方を共有していなければ思うような成果は出せないのです。
物事をシステム思考的に、そして多面的に見るためにはどうしたらいいのか。ここでは特に「時間軸」と「因果関係」という2つの視点を紹介します。