20億円の出資で8兆円の含み益に
ソフトバンクの2015年3月期の営業利益は9827億円と、かつては雲の上の存在だったNTTドコモを2期連続で上回った。純利益も過去最高の7637億円になった。市場では、買収戦略を通じた海外での成長力を評価する声が多いのも事実。孫正義社長も決算説明会で「これまでメーンは国内、海外はサブだった。これからはグローバルな会社になる」と話し、海外のインターネット関連企業への投資に成長の軸足を置くことを明らかにしている。また孫氏は「ソフトバンクは金の卵ではなく、金の卵を生むガチョウだ」(14年11月の決算説明会)と、ベンチャー企業投資の成功を自画自賛する。
このときの孫氏の説明では、次々に行ってきたIT投資の結果は、アリババなどネット企業への累計投資額(平均9.5年)は3877億円。これに対する累計リターン(収益額)はおよそ30倍の11兆6699億円にのぼるというものだ。IRR(内部収益率)は45%にもなったという。国際通信事業者のアジア・グローバル・クロッシングのように365億円もかけて回収はゼロという惨憺たる結果も中にはあるが、アリババ、ヤフージャパン、米ヤフー、ガンホーなど、ものすごい回収率を挙げているものもあって、ソフトバンクは基本的に投資を機動的に行うことで成長してきたともいえよう。
記憶に新しいのは、ソフトバンクが株式の32.59%を出資する中国の電子商取引(EC)最大手のアリババが、米ニューヨーク証券取引所に上場し、上場後の時価総額は2300億ドル(約25兆円規模)に達したことだろう。ソフトバンクは00年、アリババに20億円を出資し、その後14年間で価値は4000倍近くに膨れ上がり、およそ8兆円の含み益を手にしている。これはソフトバンクの現在の含み益9兆7000億円のうち、実に約87%に当たるといわれるほどだ。
どのようにしてアリババという金の卵を生むガチョウを見つけたのか。孫氏は「00年に中国に行き、インターネットの若い会社20社ほどと10分ずつ会いました。その中に出資を即断即決した会社があった。それがアリババでジャック・マー(CEO)の話を最初の5分間だけ聞いて、残りの時間は私のほうから出資させてほしいと。彼は、『1億円か2億円なら』と。僕は『20億円受け取ってほしい』と。『お金は邪魔にならないだろ』という押し問答を繰り返して出資に至った」(14年5月の決算説明会)。
有望なベンチャー企業を見抜く点で最強の投資家といわれる孫氏を彷彿させる話だが、アナリストミーティングのときにも「君たちの中のどの人が一生懸命有望企業を推奨しても、僕のIRRにはとてもじゃないけどかなうまい。そんなに悔しかったら自分と同じだけのリターンを挙げる会社を見つけてみてよ」と語る。実際に彼は40%を超えるリターンを挙げており、自分のビジネスで役立ちそうなものを確実に選別して、将来の動向を感じ取るセンサーが備わっていると思える自信ぶりだ。
ソフトバンクはすでに堂々たる情報通信会社だが、投資会社的な要素がもともとあった。長い歴史を見ても買収によって力をつけてきた会社である。通信とネットワークの融合を実現したいとずっと標榜しており、大枠はそれに則した投資を続けている。