親の介護に積極的過ぎる兄弟の「魂胆」
とはいえ世の中、そんな心優しい人が揃った兄弟ばかりとは限りません。
親子の情が薄い兄弟も珍しくないのです。親の方も、子どもがたくさんいれば均等に愛情を注げるわけではなく、兄弟の中には親のことを嫌っている人もいる。そんな家では、兄弟全員が介護を体験しておこうという話が出ても、「オレはあんな親の世話をするのは嫌だからね」と拒否する人がいる。それに同調する人が出ることもあり、かえって兄弟間の争いを生むことがあるのだそうです。
兄弟間の介護が難しいのは遺産相続が絡むこともあります。親が要介護になるという状況は、いわば死の前段階です。つまり介護と相続は表裏一体であり、介護には兄弟同士の相続への思惑が絡んで話が複雑になるというわけです。
やはりFさんが経験したケース。
「3人兄弟で次男の方が実家でお父さんの介護をされていました。介護中はお兄さんも弟さんもよく訪ねて来られ、介護のことなど話しておられた。仲の良いご兄弟だな、と思っていました。ところが、次男の方がやっておられた事業がうまく行っていなかったようで、親御さんの資産を返済などに流用していたんです。親御さんが亡くなった時、それが露見。兄弟仲はもうグチャグチャ。裁判に発展する争いになったと聞いています」
親に対する愛情ではなく、より多くの遺産を得たいがため、介護をする人もいるそうです。法律上(民法)では、介護をしたからといって相続が有利になることはありません。遺産分割における貢献度を示す「寄与分」という規定がありますが、被相続人(親)の財産の増加や維持に貢献したということであって、介護はそれには当たりません(高額の介護費用を支払っていたため親の財産を維持できた、という解釈も成り立つため、介護に使った諸経費の領収書を根拠に「寄与分」を主張することは可能。それに備えて介護でかかった費用の領収書はしっかりと保管しておいた方がいいそうです)。
ただし、遺産相続の際、相続を有利に進めるために、介護が利用されることがあります。遺産分割で効力を発揮するのは遺言書。介護中、親に恩着せがましいことを言って自分に有利な遺言書を書かせてしまうのです。
「相続のことは専門外ですから言えることはありませんが、揉めているのを見聞きすることは多いですね。資産家だけに限った話と思われがちですが、そうでもない。数万円というレベルでもいがみ合っている兄弟はいます。介護を受け持つ時も、“アイツは財産目的でやっているんじゃないか”と疑うご兄弟もいますし、親への情で介護をしていると思っていた人が、実は財産が目当てだったということもありますし」