TPPでいえば、なぜこの国はこういう要求をしてくるのか、ある課題についてほかの国はできるのに、なぜこの国はできないのか、何か特殊事情があるのか。TPPは国民一人ひとりの生活に影響が及ぶ内容も含まれる。相手の国が要求する理由、反対する理由をしっかり理解しておかなければ、解決策を見いだせないだけでなく、なぜ、こういう結果になったのか、国民に対して説明もできず、納得も得られない。
相手を知るとき、相手の立場を理解するだけではなく、交渉担当者その人についても、理解しておかなければならない。どのようなポジションの人間で、上司とはどのような関係にあり、どんな業界とつながりがあり、交渉現場に来るまでどの程度の準備をし、内容をどのくらい理解してテーブルに着いているのか。そして、どんな人柄か。
なかでも特にポイントになるのは、相手がどこまでのカードなら切れるのかという権限の見極めだ。例えば、相手が本当はできもしないのに、こちらの要求に対して大風呂敷を広げたとき、それを真に受けて、こちらも向こうの求めるものを提示したとする。翌日、相手が「昨日はあのように話したが、上層部に掛け合ったら、やはり無理だった」といい出した場合、当然、交渉はやり直しになる。
ただ、この間のやりとりで、相手は「ある程度の条件が整えば、日本はある程度まで出せるのだ」という情報を入手したことになり、以降、それを目指した交渉をするようになる可能性がある。最悪の場合、こちらは後戻りできなくなり、相手は求めるものを手にする。これは明らかに駆け引きだ。相手の交渉官は成功したと思うかもしれないが、そのような形の合意が日本国内で納得が得られるわけがない。
相手が交渉上の権限と全体を仕切れる能力を、制度上の仕組みのなかで、そして、個人の力量としてどれだけ有しているか。相手ができもしない大風呂敷を広げてきたとき、それを見抜くためにも、相手がどこまでのカードを切れる権限を持っているのか、しっかり見極めなければならない。