ビジネス文書に個人的なことを書くのは慎むべきですが、例えば礼状であれば感謝の気持ちを自分らしく伝えることもできるでしょう。決まりきったマニュアルどおりの礼状よりも、かえってそのほうが印象も深まります。
ただ、そのときに心がけたいのは、主観的な感情を述べるのではなく、客観的な状況を述べるようにすることです。感謝の気持ちを、それによって得られた具体的な事実を語ることで形容するのです。例えば「このたびはご紹介の労を賜り、誠にありがとうございます」に続けて「○○様のご紹介であればと快くお引き受けくださり、おかげさまで○○という成果に結びつきました」と報告を兼ねた状況描写ができればよいと思います。
ある程度、相手との信頼関係が深まれば、「あまりにもおいしいお菓子でしたので、ダイエット中にもかかわらず、3つもいただいてしまいました」「家内に自慢したところ、今度その店に連れていくようにと約束させられました」など、相手を和ませるようなエピソードを添えてもいいでしょう。その場合も冗長になりすぎてはいけません。
「便せん3枚以上の手紙は失礼」と言う人も中にはいます。やはり相手に長文を読ませて無駄な時間を取らせることは礼儀に反します。相手に時間を使わせないよう自分の時間を使って文章を練る気配りが大切です。
中級以上ともなれば、下書きは必要ないでしょうが、書くべきポイントを柱立てした走り書き程度のものは準備すべきでしょう。私自身もスピーチの際、原稿は用意しない主義ですが、柱立てを書いたメモを準備しています。
基本の型を押さえたうえで、プラスアルファとしての状況描写ができるようになれば、その次の段階は自分の個性との相談になるでしょう。ただ個性といってもそれをアピールすることを目的にすべきではありません。その人らしい教養や品格が文面から自然に滲み出るようになるのが理想です。
そのための方法論は人それぞれでしょうが、古典を読むことが一つの道になると思います。日本のものなら『万葉集』や『古今和歌集』などの歌集が基本でしょうし、漢籍なら『論語』や『史記』、もちろん西洋のものでもいいと思います。全部通読するのは大変でしょうから、好きな歌や作者のものから紐解いてみるといいでしょう。古典に親しむほど、その人が書く文章から香り立つものも違ってくると思います。
●きまりが悪い……気恥ずかしさや照れ臭さを表した古風な言い回し。「~ところを、お目にかけました」。
●襟を正して……気持ちを引き締める際に使う。『史記』に「襟を正して危坐す」とある。「各自、~臨むように」。
●汗顔の至り……恥ずかしくて合わせる顔がない様子。どちらかというと女性はあまり使わない。「このたびの不手際につきましては、誠に~です」。
●お目もじ……古く宮中の女性が好んで使った、面会を求める表現。男性はあまり使わないほうがいい。「~のうえ、ご相談したく存じます」。
●お名残惜しいのですが……別れを惜しむ気持ちが強いことを表す。「~、お先においとまさせていただきます」。