リーマンショックの原因は「過去への過剰依存」

――最近、リーダーが良い判断をした事例にはどんなものがありますか。

【パント】そこらじゅうに転がっています。リーダーの判断とは「この企業を買収すべきかどうか」というレベルだけでなく、部下と話をするときにどんな表現を使うのかといった、日々の業務のなかで常に行われていることです。

非常に危険なのは下した判断の結果だけを見て、それが正しかったかどうかを決めつけること。結果はあくまで結果であって、その判断を下さなかった場合、どういう結果になっていたのかは計り知ることができないからです。

――では、判断の良し悪しとはどう評価すればよいでしょうか。

【パント】決定理論(Decision Theory)と呼ばれていますが、その判断を下すまでに至ったプロセスを見ることのほうが評価基準としては適切です。

1つ例をあげましょう。ある部門の投資額と利益のグラフから相関性を見出し、これだけ投資すればこのぐらいの利益が上がるはずだといった推測はよく行われています。しかし、ビジネススクールでよく説明されているこうした相関性の価値は、実は全体の10%にも満たない部分であることがわかっています。したがって「過去を振り返るとこうなっているので、将来的にもこうするべきだ」という結論を導き出すのは間違っている、ということになります。

過去を捨てろ、といっているわけではありません。しかし、過去だけに注目して決断を下すのは間違っている。リーマンショックが起きたのは多くの人々が過去のデータのみに基づいて判断を下していたからで、過剰なほど過去に依存したことが金融危機を引き起こしました。

――過去にあまり依存せずに判断するとすれば、優れたリーダーは判断の際に何を見ているのでしょうか。

【パント】良いリーダーは判断を下す際の弱点を熟知しており、常に修正しています。行動決定理論(Behavioral Decision Theory)によれば、誰でも判断を下すときは必ずバイアスがかかっていて、それを是正するためのステップを踏んで判断を下すことが重要だとされています。まず自分が判断を下していることをきちんと認識する。次にそれがどのようなバイアスがかかったうえでの判断かを認識する。そのときに、自分が感じている直感を信じる。

自分の下した判断を明確に表明し、どういう判断を下したのかを黒板に書きだすようにして、自分自身で認知することが大切なのです。

(インタビュー・構成=宮内 健 撮影=上飯坂 真)
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