シニアリーダーに不可欠な「アンラーニング」

――では、リーダーは判断力をどうやって磨いていけばよいでしょうか。

【パント】リーダーシップに関する議論のなかで、最近重要になってきた考えにDoing(行動)とBeing(在り方)の違いがあります。この2つに分けてお話ししましょう。

「判断を下す」という行為は1つの専門分野です。専門分野を究めたいと思ったらピアノであれテニスであれ、やるべきことは一緒。練習をして、その内容についていろいろな人からフィードバックをもらい、自らを顧みて、コーチングを受ける。これら4つのステップを踏まなければいけません。これがDoingに当たる部分です。

一方、シニアリーダーになればなるほど、とっさに取らねばならない行動が増えてきます。そこで良い判断を下すためには、一連の行動がうまくできるように自分自身で過去を振り返る必要があります。これまで自分がどのように判断を下してきたか、自己認識を高めなければいけないということです。

自己認識を高めると、他人との関わり方や自分自身との向き合い方にその影響が表れてきます。これがまさにBeingの部分で、BeingがDoingを支えることになります。

――Beingを磨くことは、非常に難しい課題になると思います。

【パント】日本文化には何百年にもわたってBeingが根付いています。たとえばリンゴの皮を剥くという行為を見ても、日本人は完全に皮が1本につながるように剥いていきますよね。このこだわりもBeingに当たります。自動車の生産においても本当に微細なところまでこだわっていて、実はそれが最終的な自動車の性能にも影響しているかもしれません。

何事も練習である程度まではうまくできるようになりますが、その分野の本物の専門家になるには、練習するだけではダメなのです。肝心な瞬間に己を忘れるということが自己認識を高めるための最初のステップです。

たとえば組織管理は1つのスキルであり、ある程度の練習を積めば一定のレベルに達することができます。しかし、真のエキスパートになりたければ、通常の練習よりも上のレベルに行かなければならない、ということです。

――通常の練習よりも上のレベルに行くためには、経験したことを一度忘れたうえで新たに学び直す「アンラーニング」という考え方が必要になるのでしょうか。

【パント】アンラーニングは非常に重要な言葉だと思います。通常は何かを見たとき、私たちはいままで学んだ内容のなかでの分類に当てはめようとします。しかし、アンラーニングをすると、その状況でいままでとは何が違うのか、ニュアンス的なところまで感じられるようになり、オープンな状態で物事を見ることができます。

ただ、実際にアンラーニングをするのは非常に難しい。というのもリーダーは皆忙しく、素早く判断を下していかなければならないからです。

一般に人は何か問題に直面し、判断を下さなければいけないときは、過去の経験に基づいて判断をしようとします。これは良いやり方ではありますが、訪れる課題はさまざまで、すべてが過去の分類に当てはまるわけではなく、経験に照らし合わせても理解できない課題はたくさんあります。そこでアンラーニングを行う重要性が出てきます。

アンラーニングを行うためには、やはりこれまで自分がどのように判断を下してきたかという自己認識が必要です。そして心を落ち着けて、ビギナーズマインドに戻る。これをマインドフルプラクティスといい、多くのリーダーたちの助けとなっています。