「稼ぎ手は男一人」の意識を変えることが必要
――それはかなり過激ですね。反発も大きそうです。
経営者だけでなく、男性労働者が猛反対するでしょうね。連合も反発するでしょう。でも、世帯を養える賃金を男1人に払う家族給に支えられた 「男性稼ぎ主モデル」こそ、女性差別の根源なのですよ。企業は、家族ぐるみで社員を雇っているという意識があるから、社員の生活に介入してくる。(共働き夫婦が増え、女性雇用を増やすことが望まれるなど)時代背景が変わってきているのだから、ここを変えなくてはなりません。
――(3)同一労働同一賃金を確立するというのも現状だとなかなか難しそうです。個人の能力を的確に評価するなどの仕組みが必要ですね。
日本の企業は査定評価が非常に下手です。同一労働同一賃金の確立のためには個人ベースの評価が必須になります。査定評価の基準を透明にして、性別も年齢も国籍も関係なく、純粋に個人の働き、それも成果に対して給与を決めるようにしたら……オジサンたちはとても耐えられないかもしれない。これまで日本の企業は年功序列で、基本的に年齢で給与を決める、ホモソーシャルな(男同士の絆を重視する)組織文化でしたからね。
働く女性が増えると「マミートラック」すら起こらなくなる
――これまでは子育てしながら働く女性が少なかったので、企業も「両立する女性には負荷の軽い仕事を」という配慮をして、結果マミートラック(注:仕事と子育ての両立はできるが、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースを選ばざるをえなくなること)にはまってしまう女性社員が問題になっていました。しかし人数が増えてくると、そうした配慮そのものが不可能になってきます。
産休・育休から復帰するときに時短職場を選ぶにも、希望者が多すぎてオーバーフロー、という事態は、すでに起きていますね。ある企業では、総合職で10年選手という女性が40人いる職場で常時2人ずつ育休を取っている状態で、残りの38人にしわ寄せがいっていることに悩んでいると言っていました。
同じ職場でジョブカテゴリーの変更が自由にできるような仕組みがあればいいのだけれど、いったんコースから外れたら、二度と戻れない。マミートラックのまずいところでもあります。これを解決するには、同じ職場でなくても、転退職が不利にならない、流動的な雇用の仕組みにすればよい。今の雇用制度のもとでは転退職は非常に不利。辞めたらソンをするようにできているから。
でもね、人生の勝負って、短期では決まらないんですよ。子育てはいつか終わる。夫婦関係だって一生モノではなくなりつつある。職業生活には必ず定年で終わりがくる。そして、定年退職したあとのセカンドライフは想定してたより長い、ということにようやくみんなが気付いてきました。
大事なのは、最後になって死ぬときに「ああ、いい人生だったな」と思えるかどうか。トータルで見ると、今の日本では、男性より女性のほうが幸せだと思うんですよね。