中学、高校時代は岩国国際劇場とセントラル劇場に通い詰めて、上映される作品は片っ端から見ていました。そのころの映画体験は、漫画を描く上でものすごく役に立っていますし、大人になってからは意識的に映画から勉強するようになりました。

とくに漫画家になろうと会社を辞めたあとは、年間200本ぐらい見ていました。当時は入れ替えがなかったですから、最初は普通に楽しんで、2回目は構成やカメラワークに注目してメモをとる。そして3回目は字幕を見ずに英語の勉強をする。そんなこともよくやっていました。

ドラマツルギー、構成、絵の構図……映画から学んだことは計り知れません。漫画はもちろん、人生に必要なことはすべてスクリーンから学んだといっても過言じゃない。

自分自身の子育てを振り返ってみると、やっぱり親父と通じる部分があることに気づきます。子供は子供、親は親。自由に生きてくれればいいという考えが根底にありました。そもそも、いつも締め切りに追われて、働き詰めでしたから、子育てに関わる時間もなかったんです。かみさんからは、「息子とキャッチボールもしなかった」と非難されましたが、さすがにキャッチボールぐらいはしましたよ(苦笑)。

でも、気がつけば、娘はゲームのキャラクターデザインの仕事をしているし、息子は僕のアシスタントとして働きながら、ちばてつや賞を受賞し、いまは漫画家の卵としてがんばっています。漫画家になれと言ったことはないし、なれと言ってなれるものでもないんですが、親の背中を見て育つというのは、こういうことなのかもしれませんね。

漫画家 弘兼憲史
「課長島耕作」シリーズ、『黄昏流星群』など、サラリーマンとしての経験を生かした作品で人気を博す一方、『人生はすべてスクリーンから学んだ』の著書があるほど映画通としても知られる。妻は同じ漫画家の柴門ふみさん。1女1男の父。
(柳橋閑=構成 市来朋久=撮影)
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