カオスの中から命題を探す

市川博久(いちかわ・ひろひさ)●アクセンチュアオペレーションズ本部マネジング・ディレクター。1974年生まれ。97年大学卒業後、アクセンチュアに入社。コンサルタントとして大手企業の基幹系システム導入に携わる。2007年、インフラストラクチャー・アウトソーシング部門を立ち上げ、事業統括を務める。10年より同社の企業市民活動における「若者の就業力・起業力強化」チームの責任者を兼務している。
アクセンチュア
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【市川】最近、ビジネスにも「多様さ」が必要だと思うようになりました。よく、日本人は「1」を「10」にしたり、「100」にしたりすることは得意ですが、「0」から「1」を生み出すのはすごく苦手って言いますよね。僕らみたいなコンサルティング会社も同じで、これまでは、命題が分かっているものに対して最短距離で答えを導き出すことが求められてきました。つまり、「1」から「100」の世界です。

では、「0」から「1」をどう生み出すのか。もしかするとお客さまも気づいていない命題を探り出す方法は、じつは僕らもすぐに分かりません。それは多分、若新さんたちがやろうとしているような、一見無秩序な、カオスの中から模索していくことがすごく重要なんだろうなと思います。だから、活動を支援させていただいてきました。

【若新】命題そのものを探すのは、イノベーションも同じですが、計画の中からは生まれづらいですよね。「イノベーションは計画できない」と散々言われているにも関わらず、大企業などの改革戦略はあくまで計画的に進めようとされている。一方で、僕が企画した「鯖江市役所JK課」みたいに、本当に事前計画をしない変化をつくるための実験的なプロジェクトをやろうとすると、「無計画だ」とか「リスクはどうするんだ」とか「失敗したらどうするんだ」といった批判が聞こえてきます。

いつの時代も、時代の少し先を行こうとするイノベーターには支援者が現れるものですが、歴史的に見て面白いのは、支援者は緻密なプラン策定を手伝ったり、具体的な手法を教えたりしているわけではないところ。イノベーターに対して、“うっかり”すごい権力とか資金を渡しちゃったりしているんです。「俺の名前使っていいよ」といって、お墨付きを与えたりとか。

【市川】これまで僕らは、コモディティな領域で効率のソリューションばかりをやってきました。僕が担当してきたITインフラのアウトソーシング事業もそうした側面が強いものです。これからも効率化できるものは徹底的に効率化し、グローバルにアウトソーシングを進めていきます。

その一方で、超少子高齢化で就労人口も減少し、課題が山積している日本の社会を支えていくには、若新さんがやろうとしているような価値創造のイノベーションも重要なんです。日本を持続可能な社会にしていくには、「0」から「1」のテーマ設定を、クライアントとアクセンチュアのみならず、多様な人たちを巻き込みながらやっていくことが必要だろうと考えています。

【若新】今の社会問題の多くは、片方をとると片方がダメになる、といった、バランスがすごく難しいものが多いですよね。だから、社会で暮らす1人ひとりのリアルと接することが大事になってくるのだと思います。一部の人たちだけで勝手に問題を設定してしまわない、ということが大切です。